VR/MRヘッドセットで液晶復権~ 有機ELを凌駕する高解像で攻勢~
LIMO / 2018年7月2日 21時20分
![VR/MRヘッドセットで液晶復権~ 有機ELを凌駕する高解像で攻勢~](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushin1/toushin1_6529_0-small.jpg)
VR/MRヘッドセットで液晶復権~ 有機ELを凌駕する高解像で攻勢~
本記事の3つのポイント
VR/MRヘッドセットディスプレーで有機ELから液晶へのシフトが発生。有機ELが持つ応答速度の速さよりも、液晶が有利な高解像度を重視する動きが目立ってきた
17年秋から相次いで発売されているWindows Mixed Reality対応のヘッドセットは、発売予定の7機種のうち、有機ELを採用したのはサムスンの「Odyssey」のみにとどまった
現行技術では、有機ELの高精細化は難しい。応答速度に関しては、液晶が決して届かないレベルの速さを実現しており、今後の有機EL製造技術のさらなる高度化に期待したいところ
今後の大きな市場成長を期待されつつも、まだ本格化したとは言い難いVR(仮想現実)/MR(複合現実)ヘッドセット。現在はコンテンツデベロッパーやヘビーユーザーへの販売が中心で、一般コンシューマー製品として普及したといえる段階にはまだないが、ここ2年ほどの間に数多くの端末が開発・発売され、一般コンシューマーが手に取りやすい価格の端末も登場している。
このヘッドセットに搭載されるディスプレーでは、これまで主流だった有機ELから液晶へのシフトが起きている。有機ELでは現状達成できない高精細化を実現していることが評価されており、この流れが今後も続きそうだ。
応答速度から解像度重視へ
2016年に発売されたOculusの「Oculus Rift」やソニーの「PSVR」は、ほぼすべて有機ELディスプレーを搭載していた。これは、端末メーカーがディスプレーの応答速度を重視したためだ。当時の液晶は応答速度5~6msecが主流だったのに対し、100倍近い応答速度を実現できる有機ELは動画の表示特性に優れ、ユーザーの「VR酔い」を回避できるディスプレーとして評価された。
拡大する(/mwimgs/5/8/-/img_585eac875f07da7cbe43561eafdffc3a47436.gif)
だが、ここ数年で様々なコンテンツの開発が進んできた結果、直近では「ディスプレーの解像度が足りない」という声が強まっているようだ。筆者も体験したことがあるが、VRヘッドセットはディスプレーをレンズで拡大して直視しているようなもので、どうしても画素の継ぎ目が見えてしまう。高速応答によるVR酔いの回避よりもむしろ、コンテンツ開発者はよりリアルで自然な映像を映し出せることを求めている。
だが、有機ELの高解像度化はなかなか進まない。実際、アップルのiPhone Xが搭載した有機ELは5.8インチで1125×2436画素(458ppi)、サムスンの最新スマートフォン「Galaxy S9+」が搭載している有機ELも6.2インチで1440×2960画素(529ppi)にとどまっており、600ppiに届いていない。また、有機ELはRGBの配列にペンタイル方式を採用していることも、コンテンツ開発者には不評のようだ。
Windows MR用は「6対1」
一方、液晶はこの間に精細度をさらに上げた。ジャパンディスプレイ(JDI)は16年11月に3.42インチで画素数1440×1700画素(651ppi)の液晶ディスプレーの開発を発表。17年12月には、これを3.6インチで1920×2160画素(803ppi)まで向上させ、課題とされた応答速度についても従来の6msecから4.5msec(中間応答ワーストケース)に高速化した。
さらに、18年5月には3.25インチで2160×2432画素(1001ppi)のLTPSを開発。応答速度を2.2msecまで引き上げたほか、リフレッシュレートも90Hzから120Hzへ高速化した。18年度中に1000ppiを超えるディスプレーを量産に移行する予定だという。
ジャパンディスプレイ VRディスプレーの精細度
![](https://limo.ismcdn.jp/mwimgs/f/c/-/img_fc80d833b856d406fb7fc9094f29ddf3202365.jpg)
こうしたことから、17年秋から相次いで発売されているWindows Mixed Reality対応のヘッドセットは、発売予定の7機種のうち、有機ELを採用したのはサムスンの「Odyssey」のみにとどまった。
VR端末のパイオニアである台湾HTCは、初代「VIVE」に続いて「VIVE Pro」にも有機ELの採用を継続したが、Oculusは同社初のスタンドアローン機となった「Oculus GO」には液晶を採用し、解像度も上げた。Oculus GOは32GBモデルで価格が2万3800円と比較的安価だが、「液晶は有機ELよりも安価」という事情も採用切り替えを後押ししたようだ。
Oculus GOを発表したFacebookのマーク・ザッカーバーグCEO
![](https://limo.ismcdn.jp/mwimgs/5/3/-/img_53ce6ae2f93b4e8d1899c177da61e5bf532023.jpg)
次期VR/MRでは「液晶」に軍配
JDIの開発成果を見る限り、これから登場するVR/MR端末では、解像度で有機ELに勝る液晶の搭載が増えそうな予感がする。いずれ次世代機が開発されるであろうソニーPSVRが有機ELを継続採用するのか興味深いが、それには有機ELのさらなる高解像度化やリアルRGBストライプの実現が必要だろう。
ただし、先述のとおり有機ELの高精細化は難しく、現在の真空蒸着+ファインメタルマスクプロセスでは1000ppiクラスの実現がなかなか見通せない。応答速度に関しては、液晶が決して届かないレベルの速さを実現できるのだから、今後の有機EL製造技術のさらなる高度化に期待したいところだ。
電子デバイス産業新聞 編集長 津村明宏
まとめにかえて
調査会社IDC Japanによれば、VR /ARヘッドセットディスプレーの世界市場規模は17年に前年比9.1%減の836万台と減少しており、予想していたほど市場拡大が進んでいない状況です。ただ、今後は順調な市場成長を続けると予測しており、17年~21年のCAGR(年平均成長率)は52.5%、22年には7000万台に迫る市場規模と17年比で9倍弱の市場規模を形成する見通しです。ディスプレーメーカーにとっても、決して無視できない市場規模となることから、この市場を「液晶」が取るのか、「有機EL」が取るのか、非常に興味深いところです。
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