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中国の成長率低下は日本の戦後を後追いするのか

LIMO / 2019年3月3日 20時20分

中国の成長率低下は日本の戦後を後追いするのか

中国の成長率低下は日本の戦後を後追いするのか

中国の成長率が低下して来たのは、日本の高度成長期の終了と同じ理由だ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。

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中国の成長率は、かつては2桁も珍しくありませんでしたが、最近は6%台が多いようです。しかし、そのこと自体は中国の不振を示すものではなく、日本でもどこの国でも当然のように起きることなのです。今回は、中国の経済成長率について考えてみましょう。

高度成長は永続しない

日本の高度成長期が石油ショックによって終わった時、高校生だった筆者は「仕方ない。高度成長が永遠に続くはずはないのだから」と言われました。それは、今思えば真実でした。高度成長が永続しないメカニズムが働くので、当時の日本でも今の中国でも他の途上国でも、高度成長は永続しないのです。

そこで最近の筆者は、中国経済等の担当者に対して「日本の高度成長期から安定成長期について学んでおくと良い」とアドバイスをしているわけです。

理由の第一は農村からの労働力供給が止まること、第二は機械等の普及により労働生産性の上昇が止まること、第三は産業構造の変遷によって労働生産性の上昇が止まること、です。

日本と中国の類似点については、それらに加えて「少子高齢化により労働力の供給が細ると同時に労働生産性の上昇が止まること」も挙げられるでしょう。今ひとつあるかもしれませんが、それについては後述します。

余談ですが、高校生の時に受けた説明は、「10%成長が100年続いたら、国内を走り回るトラックの台数が日本の人口より多くなってしまうから」というものでした。当時の筆者は大いに納得したのですが、後から考えれば、それは誤りでした。

製品の小型化が進んだこと、経済のサービス化が進んだこと、高付加価値化が進んだこと、などにより、物流面での巨大化は続かなかったのです。たとえば筆者のスマホは当時の超大型コンピューターより遥かに高い性能を持っているわけですから、そのことを考えれば、一事が万事でしょう。

まあ、当時の大人たちは「大きいことは良いことだ」という高度成長期の文化に染まっていたのですから、仕方なかったのでしょうが。

農村から都市への労働力供給には限度あり

高度成長期には、都市に新しい工場が数多く建ちます。そこで働く労働者は、農村から来るわけですが、当然ながら農村から来る人数には限りがあります。極端な話、「農村で働く若者が全員都市部に出て来てしまい、農村は高齢者だけで維持する」としても、いつかは若者の移動が止まります。

都市部で若者が結婚して子を産むとしても、彼らが労働力になるのは最低15年先ですから、都市部の労働力不足から高度成長が鈍ることは避けられません。余談ですが、経済学ではこうした理由で成長鈍化が始まる時点のことを「ルイスの転換点」と呼ぶようです。

機械の普及率上昇で労働生産性の上昇が緩やかに

手作業で田畑を耕していた農村にトラクターが導入されると、同じ田畑を少ない人数で耕せることになります。労働生産性の劇的な向上です。しかし、すべての農家がトラクターを持ってしまうと、労働生産性の向上は止まります。古いトラクターを最新式のものに取り替えたとしても、労働生産性の向上はわずかでしょうから。

同様のことは、洋服工場でも起こります。手作業で洋服を縫っていた工場にミシンが導入されれば労働生産性は劇的に向上しますが、旧式のミシンを最新式のものに置き換えても、労働生産性の向上は限定的ですから。

産業構造の変遷によって労働生産性の上昇が緩やかに

ペティ・クラークの法則と言われるものがあります。経済が成長すると労働力が第一次産業(農業等)から第二次産業(工業等)へ、第二次産業から第三次産業(サービス業等)へ、移動していくというのです。

人々が貧しい時は、まず食べることですから、人々は食糧生産に従事せざるを得ません。満腹になると、テレビや化粧品が欲しくなりますから、工業製品の需要が増え、工業で働く人が増えます。人々は、テレビや化粧品が買えるようになると、次はコンサートや美容院へ行きたくなるので、コンサート産業や美容院といったサービス業で働く人が増える、というイメージですね。

問題は、工業に比べてサービス業は労働生産性が低いということです。全自動の工場で化粧品を作るのと比べて美容院は、1万円を稼ぐために必要な労働者数が遥かに多いからです。したがって、需要が第二次産業から第三次産業に移動することによって、国全体としての労働生産性は下がっていくわけです。

少子高齢化により労働力の供給が減り、労働生産性の上昇が止まる

日本は少子高齢化ですから、現役世代の人口が減っていきます。そのこと自体が、経済成長率を押し下げる要因となります。加えて、高齢化は需要を自動車等から医療・介護へとシフトするので、労働生産性を低下させる要因となります。

若者が100万円の自動車を買っても全自動のロボットが自動車を作るだけですが、高齢者が100万円の介護を頼むと大勢の介護士が必要となるため、日本経済全体としての労働生産性は下がるのです。

日本の場合は、高度成長が終わってから少子高齢化となりましたから、直接の影響は見られませんでしたが、中国では高度成長期の最中に少子高齢化の影響が出始めるとすると、日本以上に高度成長の持続が難しくなるのかもしれませんね。

日本は石油ショックで激変だったが、中国は・・・

日本の場合、「石油ショックで高度成長が終わった」と言われていますが、これはミスリーディングです。高度成長は、石油ショックがなくても終わっていたでしょう。もちろん、成長率が少しずつ低下して行き、スムーズに安定成長期に移行できたのでしょうが。

そこで筆者は、「中国の場合には石油ショックの影響がないのだから、日本と異なり高度成長期から安定成長期への移行はスムーズだろう」と考えていました。しかし、ここへ来て雲行きが怪しくなってきましたね。

米中冷戦で中国経済が大打撃を受ける可能性が高まりつつありますし、加えて中国国内の過剰債務問題も深刻なようですから、もしかすると中国経済の成長は急減速(または失速)するかもしれません。

そんなところまで日本を真似なくて良いのですが(笑)。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

<<筆者のこれまでの記事はこちらから(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>

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