この春転職するあなたへ。「資産形成」のアドバイス。年金と退職金の考え方
トウシル / 2019年4月16日 12時0分
この春転職するあなたへ。「資産形成」のアドバイス。年金と退職金の考え方
転職者は退職金の受け取りで「大きなチャンス」と「ひとつの弱み」がある
この春、いい条件の求人に巡り会い転職をされた人もいることでしょう。まずはチャンスを掴まれたことをお祝い申し上げます。転職は自分の評価を高めるために、自分でつかみとる「チャレンジ」です。あなたが行動を起こしたことは何より素晴らしいことです。今の会社より年収が上がるのであれば、ぜひ新しい仕事を続けてみてください。
新しい会社での最初の数カ月は、好奇の目にさらされます。色々な社内のローカルルールにも慣れなければならず、ストレスを抱え込むこともあるでしょう。慣れるまでは、早めに帰宅して気分転換や、散歩に出てお昼休みにひとりの時間を作るなど、うまく乗り切ってください。じきに慣れるので大丈夫です。
さて、転職は年収を増やす大きなチャンスですが、一方でウイークポイントがあります。それは「退職金・企業年金」です。今回は「転職と退職金」の話をしてみましょう。
転職者がどんなに年収を増やしても、退職金だけは退職のたびに細切れで精算されることになります。退職金はセカンドライフのための大きな財産ですが、現金で受け取ると老後に残らないことになります。
退職一時金はどこにも通算できない
制度別に確認していきましょう。まず「退職一時金制度」です。これは企業年金の枠組みを用いていないという意味で、現金で受け取るしか選択肢がないものを指します。中小企業の場合、中小企業退職金共済制度(中退共)から支払われることもあります。
退職一時金については、老後までいずれかの制度へ引き継ぎ通算する選択肢はありません。iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)に資産を引き継げると便利ですが、今のところ法律の仕組みがないからです。
そうすると、退職一時金を受け取った後は、そのお金を使わないことが大切です。できればNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)の口座に入金する、個人向け国債(変動10年など)を購入するなど、中途解約しにくい状況にしておくといいでしょう。
どうしても使わざるをえなかった場合は、その分をその後のキャリアアップ分から捻出し証券口座などに積み上げるようにしてください。勤続期間が短いので受取額が減り、定年退職時に「同僚より少ない」と焦ることになります。
確定給付の企業年金は、望めばiDeCoへ移すことができる
会社が確定給付企業年金を実施していた場合、中途退職者は受給開始年齢(多くの場合60歳以降)に達していないため、退職一時金として現金精算されることになります。実を言うと、本人が希望すればiDeCoなどの制度へ資産を移すことができます。
◆制度上の選択肢としては3つの選択肢があります。
A:転職先の確定給付企業年金に移す
B:企業年金連合会に移す(通算企業年金)
C:iDeCoに移す
また他に、
D:今の企業年金制度で年金受給権があるなら、そのまま留め置いて60歳以降に受け取る
という方法もあります。
ただし「A:転職先の確定給付企業年金に移す」については、転職先の制度に受け入れ体制がないといけず、残念ながら多くの確定給付企業年金は受け入れをしていません。
次に「B:企業年金連合会に移す(通算企業年金)」ですが、こちらは企業年金連合会が実施している制度へ資産を引き継ぐものです。この場合、65歳から終身年金としてもらえます。資産を移すとまず事務費が引かれ、その後の期間に応じて運用利回りが付与し、65歳から受け取れます。ちなみに45歳未満で移換をすると、年1.5%の予定利率がつきます(将来高金利になったときは付利される可能性があるが保証はされない)。
また、一時金として65歳まで解約ができません(死亡時を除く)。詳しくは企業年金連合会のHPで確認してみてください。
「C:iDeCoに移す」については、iDeCoの口座に受け取り額を引き継ぐことになります。移したあとは、過去積み立てた分や将来積み上げていく分をiDeCoに一体化し、管理されることになります。
最後の「D:今の企業年金制度で年金受給権があるなら、そのまま留め置いて60歳以降に受け取る」については、一般的に、20年以上の勤務期間を経過するとその企業年金で年金受け取りができる権利があります。これは退職しても有効なので、資産をそのまま残して、60歳以降(規約による)に受け取り請求をして年金をもらうこともできます。その間の利回りは各規約によります。また、企業年金が解散になったときは資産が分配されることになります。
かつて、年金受給権(多くの場合加入20年で権利獲得される)がある場合、その企業年金に留め置き、その企業年金から年金受け取りをするしか選択肢がありませんでした。しかし2018年の改正により、定年退職していなければ他の制度に資産を引き継げるようになりました(A:~C:の選択肢)。ただし注意点がひとつあります。退職時に、現金受取を完了させてはいけないということです。銀行口座の振り込み指定書類に記入してしまい入金が完了すると、iDeCoなどに引き継げないことになります。もし移したいのであれば、退職時の説明を聞いたときに「脱退一時金相当額の権利義務移転をするつもりです」と説明して、一時金受け取りの書類には記入しないでください。(そのあと気が変わった場合、現金受け取りにすることもできます)
確定拠出年金は転職にともない、全額を持ち運ぶのが原則
今まで勤めていた会社が確定拠出年金を実施していた場合はどうなるでしょうか。この場合、60歳までは原則受け取れません(資産額が1.5万円以下の場合のみ無条件で解約も可能です。詳しくは、社内の担当者へ問い合わせてください)。
退職時は、必ずポータビリティを行使して資産を持ち出さなければなりません。このルールはかなり厳格です。半年間手続きを怠ると強制的に企業型確定拠出年金からあなたの資産は排出され、国民年金基金連合会(iDeCoの実施団体)に強制移換されるほどです。そうなった場合、手数料を引かれるうえ無利息になるため、自分で手続きしたほうがよいでしょう。
転職先が企業型の確定拠出年金を実施していた場合は、転職先の人事・総務部へ、前職で確定拠出年金をやっていた旨を連絡すれば、引き継ぎ手続きが行われます。最近では手続き漏れがあっても金融機関間で情報交換し、資産を引き継ぐ手続きが行われるようになりましたが、自分で申し出ておくほうが確実で安心です。
企業型確定拠出年金がない会社に転職した場合は、iDeCoに資産を移すことになります。運営管理機関は退職をきっかけに、iDeCoの口座開設申し込みを用意していますので、書類を取り寄せて口座開設をするといいでしょう。
退職金が細切れになるリスクは、年収増でカバーしよう
資産を引き継げるかどうかは、会社が実施していた制度によって異なります。まとめておくと、こうなります。
資産を移すケース
- 確定給付企業年金について、ポータビリティの権利行使をした場合
- 確定拠出年金に入っていた場合
資産を移せないケース
- 退職一時金制度の場合
- 中小企業退職金共済制度の場合
- 確定給付企業年金の一時金精算で現金を受け取ってしまった場合
最後にマネープラン上の問題点を、もうひとつ指摘しておきます。
退職金・企業年金制度の多くは、長期勤続を優遇する制度設計であるということです。22歳入社60歳定年退職のモデルがあったとき、退職金の権利は勤続38年にわたって38分の1ずつ増えていくわけではありません。「勤続20年未満」は伸び率が低く、「勤続20年以降」は伸び率が高いことが多いのです。
20歳代の若手よりも40歳代のベテランのほうが会社への貢献も大きく、均等でないのには一定の合理性もあるのですが、極端に偏らせていることが少なくありません。
また、20~40歳代の自己都合退職者は、さらに退職金を減額する慣行も多くあります。勤続年数にもよりますが、30%以上受け取り額がダウンすることもしばしばあります。そうすると、中途退職時にもらった退職金を全額保全していても、一社に勤め続けていた場合の退職金の権利を下回ることになります。しかも定年まで勤め上げたとき、勤続年数が少ない分、転職先の退職金水準もプロパー社員より低くなることは避けられません。
対策としては2つ考えられます。
1.受け取った額は、資産運用に供してインフレ以上の利回り確保を意識すること
2.キャリアアップによる年収増の一部を、自分の老後のための資産形成に回すこと
今よりも増額するなど、年収アップを勝ち取る転職が成功して落ち着いたら、ぜひ老後のための資産形成もスタートしてください。そうしないと、現役時代は年収増のメリットを享受したけれど、最後の退職金が少なくて老後にがっかりするキャリアになってしまうからです。もちろん、あなたの資産運用スキルはここで最大限に活用できます。
ぜひ上手にお金を貯め、増やして、老後の豊かさにもつなげてみてください。
(山崎 俊輔)
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