ミシガン指数、10年振りの低さ。為替のプロはどう読み解く?
トウシル / 2021年8月18日 15時35分
ミシガン指数、10年振りの低さ。為替のプロはどう読み解く?
デルタ型まん延は米国社会でさらに深刻化
7月のドル/円は1ドル=111円台で始まったものの数日しか維持できず、その後は109.50円~110.50円のレンジで動いていましたが、いよいよこのレンジが下方にブレイクしそうな気配が漂ってきました。
8月に入って発表されたISM(米サプライマネジメント協会)非製造業景況指数と米雇用統計が良好だったため、再び110円台に突入しましたが、110円台半ばを超えられず失速し、先週13日(金)に発表された8月のミシガン大学消費者信頼感指数(*)で一気にドル全面安となりました。
ミシガン指数は前月比▲11.0の70.2と、2011年12月以来、10年振りの低さにマーケットは驚きました。10年振りということは、昨年のパンデミック発生時の水準よりも低いということになります。
指数の調査員によると、新型コロナウイルスのデルタ型の感染拡大によってパンデミックが間もなく収束するという消費者の期待が打ち砕かれたということですが、かなりデルタ型まん延は米国社会の中で深刻化してきているということかもしれません。
(*)ミシガン大学消費者信頼感指数(University of Michigan survey)
- 米国の消費者マインドを表す経済指標で、ミシガン大学のサーベイ・リサーチセンターが毎月発表し、「ミシガン大学消費者態度指数」とも呼ばれています。
- 調査は速報値が300人、確定値が500人を対象に実施。「景況感」「雇用状況」「所得」に関して、「楽観」「悲観」で回答し、1966年を100として指数化されます。毎月第2または第3金曜日に速報値が、最終金曜日に確定値が発表されます(米国東部時間10:00)。
- もうひとつの代表的な指標であるコンファレンス・ボード(CB)が発表する消費者信頼感指数と比べ、対象人数が少ないため(CBは5,000人)月ごとの振れ幅が大きくなっています。ただ、発表のタイミングが早いことから、先行指標としてマーケットでは注目されています。今回も確定値発表で修正される可能性もあるため注意が必要です。
- 指標が予想より強ければ米国経済は好調とみなされドル買い、逆に弱ければ不調とみなされドル売りというのが、基本的な反応になります。
ドル/円は、このミシガン大学消費者信頼感指数発表後、109円台半ばで先週を終えましたが、今週に入って109円台前半~半ばで推移しています。
また、8月10日現在のIMM(シカゴ・マーカンタイル取引所:CMEにある国際通貨市場)の円のネット・ショートは、再び増加してきています(▲6万657枚、前週比▲5,467)。円売りポジションが増えてきた中でのドル安・円高だったため、このままドルが上がらないとこのポジションは、いずれドル売り・円買い圧力になってくるかもしれません。
クロス円も上値が重たい状況が続いています。今後、クロス円のさらなる下落が伴うとドル/円の円高が進み、レンジも107円台~109円台に移っていく可能性が高まってきます。
テーパリングのタカ派発言
最近、FRB(米連邦準備制度理事会)高官から、テーパリングについてタカ派発言が相次いで出てきています。8月2日、ウォーラー理事は、雇用次第で9月までにテーパリング発表もあり得ると述べ、テーパリングは10月にも開始され、5~6カ月程度で完了する可能性があると発言しています。
また、これまでパウエル議長に歩調を合わせていたクラリダ副議長は、8月4日、テーパリングについては年内に発表し、2023年には利上げを開始すると、ややタカ派的な見通しを示しました。
これらの発言は、8月6日の米雇用統計発表前の発言ですので、6日の良好な雇用統計を受けてFRB内がよりタカ派になってきているかもしれません。
8月26~28日のジャクソンホール会合でのパウエル議長の講演について、ますます注目度が高まってきます。ジャクソンホール会合でパウエル議長がこれまでのトーンを変えてややタカ派になれば、ドル/円の円高へのレンジブレークも失敗するかもしれないため、注意が必要です。
テーパリングについては、開始時期も注目ですが、テーパリングが実行される期間も注目され始めています。2014年のテーパリングの時は10カ月かけて実行していますが、この期間よりも長くなるのか短くなるのか注目度が高まってきています。
先程のウォーラー理事は、テーパリングは5~6カ月程度で完了する可能性があると発言しています。もし、期間が前回よりも短くなれば、利上げも早まるのではないかとの思惑から、金利は上昇し、ドル高となります。
また、パウエル議長が任期終了前の期間も含めたテーパリングの道筋をジャクソンホールで示すのではないかという期待も高まっています。
しかし、一方で、シンポジウムのテーマは「不均一な経済におけるマクロ経済政策」であるため、格差是正のための金融政策が議論の中心であり、テーパリングには触れても具体的な内容には触れない可能性もあるため、肩透かしにも注意する必要があります。
8月後半の注目材料
8月前半が終わり、為替市場ではこれまで静かなマーケットが続いていましたが、マーケットを大きく動かす材料は積み上がってきているため、警戒しておく必要がありそうです。
アフガン情勢は、米政権が予想以上に早い展開と認めているように、今後、米軍撤収後の中央アジアの軍事・政治バランスが崩れ、地政学リスクが高まってくる可能性があります。今のところマーケットに影響を及ぼすほどの事態にはなっていませんが、目は離せません。
17日、NZドルが急落しました。NZ国内で感染者が一人確認されたとして、ロックダウンを行うと発表したためです。NZ政府は感染者一人で厳しい対応をしましたが、欧米でデルタ株の感染者が急増してきているため、今後、欧米でも再び経済・社会活動を規制してくる可能性も想定され、景気回復の足かせになる懸念が高まってきています。
中東情勢の不安定化、ジャクソンホール会合、デルタ株感染者の急増や中国経済の鈍化による世界経済回復の足踏み、これらが8月後半の注目材料になりそうです。
(ハッサク)
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