6月のビットコイン見通し~年初来の上昇が一服、ここからどうなる?
トウシル / 2023年6月8日 11時0分
6月のビットコイン見通し~年初来の上昇が一服、ここからどうなる?
5月のビットコインイベント
NEW! 5月8日 | PEPE騒動の影響でBinanceで入出金停止 |
NEW! 5月22日 | ビットコイン・ピザデー |
NEW! 5月23日 | 香港当局、個人向け暗号資産取引解禁・CCTVが報道 |
*2023年1月以降の主なビットコインイベントは記事最終ページにまとめています。
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5月の振り返り
5月のビットコイン価格(円)とイベント
上値重い展開
5月のBTC(ビットコイン)は上値の重い展開。
信用不安が浮上したファーストリパブリック銀行をJPモルガン・チェースが買収、金融危機は一服したかに見られたが、5月3日(日本時間4日早朝)のFOMC(米連邦公開市場委員会)でパウエル議長が金融システムの安定に自信を示す傍ら、パックウエスト銀行株が急落するなど、信用不安はくすぶり続けた。
そうした中、BTCは底堅く推移した。しかし、後ほど説明するPEPE(ペペコイン)問題でBTCのブロックで承認遅延が発生、ついで送金手数料が高騰、ついにはBinanceが一時入出金を停止する事態に至ると、BTCは値を下げた。
パックウエスト銀行の預金流出が伝えられるなど金融不安がくすぶる中、注目の雇用統計やCPI(消費者物価指数)が景気減速シナリオを否定する内容ではなかったとの見方から6月FOMCでの利上げ見送り観測が強まり、BTCは2万6,000ドル割れで切り返した。
その後、金融不安が後退。FRB(米連邦準備制度理事会)高官からタカ派発言も続く中、6月利上げの見送り観測が後退した。その一方、債務上限問題を巡る不透明感もあり、BTCは2万7,000ドル近辺で方向感を失っていた。
しかし、民主党のバイデン米大統領と共和党のマッカーシー下院議長が、2年間の非国防支出抑制で大枠合意、米政府のデフォルト懸念が後退したことから2万8,000ドル近辺に反発した後、上値の重い展開が続いている。
相場の重し
結局、5月は、今年に入って初めての陰線引けとなった。アノマリー的にも4カ月連続で陽線が続き、5カ月目に陰線が出たのは初めてだ。ここまで順調だったBTC相場の何が重しとなったのだろうか。
BTC/JPY(週足)
まず、先月も説明した3万ドル、400万円の壁だ。上はBTCの週足だが、350万円と450万円に水平線を引いてある。このレベルはちょうど2021年にもみ合った水準で、塩漬けになっていたその頃のロングポジションが持ち値近くに達し「やれやれ売り」が出ている可能性がある。
BTCブロックチェーン上のトランザクション数(日次)
BTCブロックチェーン上の取引あたりの送金手数料
また、PEPE問題によるBTCチェーンの混雑も、5月のBTC市場の重しとなった。PEPEとはカエルをモチーフにしたコイン。犬をモチーフにしたDOGE(ドージ)コインなどと同様、ノリで作られたミームコインと呼ばれるもので、BTCのブロックチェーンを利用する点が特徴だ。
こうしたトークンやNFT発行にはETH(イーサリアム)などのスマートコントラクト機能を利用するのが通常だが、BTCの最小単位1サトシ(0.04円)のトークンのコメント欄にデータを入力して、他のトークンとして流通させる仕組みが登場した。
この結果、BTCチェーンのトランザクション数が史上最高を記録し、BTCがWEB3領域に進出したと歓迎する向きもあるが、一方でネットワークの混雑をブロックチェーンに対する攻撃だと眉をひそめる向きもあり、コミュニティ内でも見方が定まっていない。
そうした中、PEPE価格低下とともに手数料は落ち着いたが、その後もBTCチェーンを利用したNFTやステーブルコインなども次々と出現し、チェーンの混雑は解消していない。
直近では米国の債務上限問題も相場の重しとなった。6月上旬とも言われたXデーまでに債務上限を引き上げないと、政府閉鎖や最悪の場合、米国債のデフォルトもあり得るといった言説が出回った。
しかし、バイデン大統領と共和党のマッカーシー議長が大枠合意し、難航が予想された下院採決も超党派の中道連合により大差で可決、デフォルト回避が確実視されている。
こうした中、最大の重しとなったのは、やはり6月FOMCでの利上げ打ち止め、年内の利下げといった金融緩和期待の後退だろう。コロナ対策による無制限緩和に不安を覚えた投資家のインフレヘッジにより、大きく上昇したBTC相場だが、2021年11月のテーパリングによる金融政策正常化を機に、下降トレンドに転じた。
昨年12月の利上げ幅縮小(50→75bp)で下げ止まり、今年に入りもう一段縮小(50→25bp)したことで上昇に転じた。そして3月に金融不安が勃発、年内利下げが確実視されるとBTCは3万ドルを突破、前日の壁に上値を押さえられた。
4月に入っても金融不安は収まらず、結局、ファーストリパブリック銀行が破綻、JPモルガンが買収することで決着した。
米地銀株価推移(3/1=100)
5月に入ってもパックウエスト銀行株が急落するなど事態は完全に収まってはいないが、少なくともこの1カ月、金融負担の破綻は鳴りを潜めている。また、利下げの根拠となるほどの景気の悪化を示す指標は出ていないことから、利下げ期待が後退し始めた。
CMEのFF先物に織り込まれた金利水準
市場が織り込む、現在のFF水準である5.125%から1回25bp利下げした水準4.875%(赤い点線)の時期は、4月半ばから5月半ばまで9月水準(緑)だったが、直近では12月水準(水色)に後倒しになっている。
6月見通し
材料面から見た6月見通し
こうした中、6月のBTC相場はどうなるだろうか?
先ほどの金利見通しが動き出したのが5月13日のボウマンFRB理事のコメントあたりから。それまで市場が、6月利上げ見送りをほぼ10割織り込んでいたのに対し、利上げの可能性を示唆し始めた。その後もメスター氏、ローガン氏、ブラード氏と地区連邦準備銀行総裁のタカ派な発言が続き、6月利上げ織り込みはぐんぐんと上がっていった。
いったん、利上げ方向に市場が動き始めると、パウエル議長のハト派発言でも止まらず、ついには7割織り込むに至ったが、ブラックアウト入り直前の31日に次期副議長に指名されているジェファーソン理事のスキップ発言で2~3割水準に戻った。
こうしたFRB高官の発言には、ある程度共通点がある。タカ派もハト派も今後数週間のデータ次第と条件を付けている点だ。すなわち、6月FOMCの前日にCPIが発表されるので、その数字を見ないと判断がつかないということである。
これに対し、市場が5月前半は利上げ見送りを織り込み過ぎると、FRBから修正のタカ派コメントが入り、逆に利上げを7割織り込んでしまうと、それは行き過ぎだとハト派のコメントで修正が入っている格好だと考える。
過去50年間の米CPIとFF金利
現時点では結論が出ないので、市場の心理が揺れ動くという点は、9月以降の利下げのタイミングについても似ているかもしれない。FRBは頑として年内利下げを否定している。これは1970年代の第1次オイルショック後のインフレ対応に対する反省だ。
インフレが下がり切る前に利下げをしてしまった結果、インフレが5%前後で下げ渋り、人々の期待インフレが下がり切らないまま、次の第2次オイルショックが到来した結果、さらに厳しく長いスタグフレーションを招いたからだ。
これに対し、市場は、そうは言っても利上げや金融不安の影響で景気が悪化し、早晩利下げに踏み切らざるを得ないと考えており、FRBの景気の見通しが異なる。では、どちらが正しいのかは、もう少し先になってみないと分からないので、市場のセンチメントは揺れ動くわけだ。
9月に利下げする可能性あるが
過去50年間の米CPIと実質金利(FF金利-CPI)
実は筆者は早ければ9月にも利下げがあり得ると考えている。ここにきてようやく政策金利がCPIを上回った。実質金利がプラスになったわけだ。そのインフレ率を使用するのかという議論は残るが、CPIベースでも実質金利がプラスになったことで、金融政策の引き締め効果が効きやすくなっているからだ。
また金融不安が景気に与える影響にもタイムラグがある。1997年11月の北海道拓殖銀行の破綻時を受け、1998年第1四半期に大きく景気が落ち込んだ。また1998年11月の日本長期信用銀行の破綻の影響は、1999年第1四半期に出た。
2008年9月のリーマンショックの影響は、2008年の第4四半期と2009年第1四半期に出ている。このパターンで行けば、今年3月から4月の金融機関の破綻の影響は、6月から7月にかけて発生すると考える。
すると7月から8月に指標に表れ始め、早ければ9月にも利下げに踏み切る可能性があると考えるが、6月時点ではそうした兆候はまだ見られない可能性が高く、結局、5月のような決め手に欠ける展開がもう1カ月続きそうだ。
暗号資産政策が争点に
そうした中、少し面白い動きも出てきた。共和党の有力候補とされるデサンティス・フロリダ州知事が、立候補表明でBTC支持を訴え、バイデン政権はBTCを禁止しようとしていると非難した。民主党のケネディ候補もBTC支持を表明している。このように現政権の暗号資産に後ろ向きな姿勢が、大統領選の争点になりつつある。
また香港が個人向けの暗号資産取引業を解禁したことを、中国国営のCCTVが紹介した。BinanceのCZ氏によれば、これは中国政府の暗号資産に対する態度の変化の兆しで、強気相場につながる可能性があると指摘。北京市はWEB3のホワイトペーパーを発表した。
中国政府は、2021年にマイニングを国内から追放するなど、暗号資産に厳しい態度をとってきた。偶然かもしれないが、米国の姿勢が厳しくなるにつれ、中国が緩和に動き始めており、両国の覇権争いがこうした部分にも表れて興味深い。
テクニカル面もあわせた6月見通し
BTC/JPY 一目均衡表
BTC/JPY パターン分析
テクニカル的には、一目の雲を下抜けており、上値が重そうだ。ただ、まだレンジの中に止まっており、上抜けには失敗したが、まだしばらくレンジ取引を続けそうであることを示唆している。
BTC月別騰落一覧
アノマリー的にも4カ月陽線が続いて陰線に転じ、6月はやや強い程度で、さほど強いインプリケーションはない。
まとめると、6月のBTC相場は材料的にもテクニカル的にもレンジ内でのもみ合い推移を続けそうだ。
2023年 時事イベントと暗号資産イベント(最新順)
4月25日 | コインベース、SECを提訴 |
4月24日 | ファーストリパブリック銀行決算発表で1,000億ドルの預金流出判明 |
4月19日 | SEC委員長、下院公聴会で批判集まる |
4月12日 | ETH上海アップデート |
3月27日 | CFTC、Binanceを提訴 |
3月22日 | コインベース、SECから訴追予告受け取る |
3月22日 | SEC、ジャスティン・サン氏らを起訴 |
3月12日 | シグニチャー銀行が経営破綻、閉鎖へ |
3月8日 | シルバーゲート銀行清算を持ち株会社が発表 |
2月23日 | ゲンスラーSEC委員長、BTC以外は証券に該当する可能性 |
2月13日 | パクソス、Binance USD(BUSD)発行停止 |
2月9日 | クラーケン、ステーキング停止 |
1月19日 | ジェネシス・グローバル・ホールドコ、チャプター11申請 |
1月17日 | 香港拠点のBitzlatoのCEOを米当局が逮捕 |
*マイニングとは:暗号資産(仮想通貨)は一般的にブロックチェーンと呼ばれるネットワーク参加者が誰でも見られる元帳上に取引を記録していきます。そのブロックチェーン上に取引データを記録する際に、膨大な計算を行うことで新たなブロックを生成する暗号を見つけ出し、その報酬としてコインを手に入れる行為のことです。マイニングの主な役割は「暗号資産の新規発行」と「取引の承認」です。
**BlockFiとは:暗号資産融資プラットフォームBlockFi(ブロックファイ)が提供する暗号資産を預かって利息を払うサービス(レンディング)が証券法に違反したと提訴された事件に関する和解として、SEC(米国証券取引委員会)に1億ドル(約115億円)を支払うと発表。
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(松田 康生)
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