2025年の原油相場は高止まり説が有力
トウシル / 2024年12月17日 8時55分
2025年の原油相場は高止まり説が有力
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著者の吉田 哲が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「2025年の原油相場は高止まり説が有力」
2024年も「高止まり」だった原油相場
2024年のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油相場は、高値こそ2023年の90ドル台に届かなかったものの、数年にわたって続いている80ドルを挟んだプラスマイナス15ドル程度のレンジ内に収まっていることが分かります(12月16日時点)。
図:NY原油先物(月足 終値)と米CPIのエネルギー(実数値)の推移
この場合のレンジの下限は2021年12月以降の安値水準である65ドルで、上限は2022年後半以降の高値水準である95ドルです。
そもそもこのレンジの水準は、長期視点で見れば「高い」といえます。2000年代前半に付けていた30ドル台や2015年ごろの40ドル台に比べると、はるかに高いためです。この意味では、この数年間の原油相場は「長期視点の高止まり」状態にあるといえます。世界でまん延するインフレがなかなかなくならないのはこのためです。
レンジ相場とは、相場が上昇圧力(ここでは下に掲載の図中の赤い上向き矢印)によって形成された下限と、下落圧力(青い下向き矢印)によって形成された上限の間で推移している状態のことです。つまりこの数年間の原油相場は、高い水準で上昇圧力と下落圧力に挟まれ続けているのです。
2025年の原油相場を展望する上で必要なことは、現在の上昇圧力と下落圧力が何であるかを明らかにすること、そしてそれらの圧力がどう変化するのかを展望することであるといえます。筆者が考える上下の圧力は、以下のとおりです。
図:原油市場を取り巻く環境(2024年後半~)
下限を形成する上昇圧力は「産油国での戦争」「OPECプラス(石油輸出国機構12カ国と非加盟の産油国10カ国で構成)生産動向」「トランプ政権への思惑」「米国の金融政策」など、上限を形成する下落圧力は「OPECプラス生産動向」「トランプ政権への思惑」「中国悲観論」などです。
中東情勢:混迷深まり供給減少懸念強まる
2023年10月に勃発したイスラエルとハマスの戦争が、中東の広い地域に波及しました。足元、イスラエルは、パレスチナ自治区のハマスをはじめ、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派など、イランが後ろ盾となっているイスラム武装組織と交戦状態にあります。
そのイスラエルの国連大使は、2024年5月、国際連合の総会で演説中に国連憲章の表紙を持参したシュレッダーで裁断しました。多数の加盟国がイスラエルによる攻撃が続くパレスチナの国連加盟を支持していることを受け、「国連が、テロリスト国家を迎えようとしている」と非難し、抗議の意図を示すためでした。
態度が先鋭化し、孤立状態になりつつあるイスラエルは目下、混迷を極めるシリアを攻撃したり、領土占有を企てたりしています。
図:シリア・アラブ共和国(Syrian Arab Republic)周辺地図
シリアはおよそ50年間にわたり独裁的な政権運営が行われてきました。2010年代前半、北アフリカ・中東地域で巻き起こった民主化運動「アラブの春」が同国にも及び、民主化を求めるデモが起こりましたが、父の代から独裁的な体制を敷いてきたアサド政権が武力で弾圧しました。これをきっかけとして、政権と反政府勢力との間で激しい内戦が勃発しました。
2024年10月から11月にかけてシリア情勢が大きく動きました。同国政権に対するロシアの影響力がウクライナとの戦争がきっかけで低下する、イランの影響力がイスラエルとの戦争がきっかけで低下する思惑が強まったためです。シリア北東部のクルド人自治区に対する米国の影響力がトランプ政権への移行がきっかけで低下する思惑もあります。
図:シリア・アラブ共和国(Syrian Arab Republic)と周辺地図
こうした大国たちの影響力が低下する懸念が目立ち始めたことを機に、反政府勢力が勢いづき、短期間で政権を奪取しました。ただし、反政府勢力は一枚岩ではなく、だれがどのように統治するか、大変に不透明な状況にあり、同国は今「政治の空白」が懸念されています。
そして今、態度が先鋭化したイスラエルがそこに付け入り、シリアを攻撃したりするなど、影響力を強め始めています。イスラエルの影響力が大きくなればなるほど、シリアだけでなく、中東全体をめぐる懸念が大きくなる可能性があります。2023年10月から続く、イスラム武装組織との戦いも激化する懸念があります。
イスラエルを起点とした中東地域における懸念拡大は、2025年の原油相場に上昇圧力をかけ続ける一因になると、筆者は考えています。
OPECプラス:生産シェアと原油高を享受
OPECプラスは2024年6月と12月に、協調減産の期間延長を決定しました。2024年12月時点で、同減産は2026年12月まで続くことが決定しています。長期的に世界全体の原油の需給バランスを引き締め続け、原油相場を高止まりさせる意図があると考えられます。
図:OPECプラスの減産(イメージ) 単位:万バレル/日量
OPECプラスの減産は巧妙に仕組まれていると、筆者は考えています。2024年12月の会合で協調減産の延長を決定したのと同時に、自主減産の縮小プランを決定したためです。
2024年の中ごろから、2023年に開始した自主減産の縮小が議論され始めていましたが、縮小の開始時期の延期が続いていました。そうした中、12月の会合で2025年4月から縮小を開始し、2026年後半に自主減産を終えるプランを決定しました。
その結果、自主減産が縮小しても、協調減産が続く状況が維持されることが確定しました。OPECプラスの決定は、原油相場を下げさせない策(協調減産維持)と、世界の原油生産シェア維持(自主減産縮小)を、両立させ得るものだったといえます。
トランプ政権発足に伴って拡大しつつあった、米国の原油生産量増加→同国の原油生産シェア拡大→OPECプラスのシェア低下→OPECプラスの市場への影響度低下、という連想に待ったをかけた格好です。
OPECプラスが望む原油価格の水準を探るヒントがあります。IMF(国際通貨基金)が算出・公表している財政収支が均衡するときの原油価格です。同データ内で確認できるOPECプラスに属する11カ国の平均は、以下のとおり「90.9ドル」です。90ドルを超えることで、財政収支が均衡する計算です。
図:主要原油輸出国の財政収支が均衡する時の原油価格 単位:ドル/バレル
長期視点で見た高値水準を望みつつ、生産シェアを損なわないようにするOPECプラスは、巧妙な戦略を講じているといえます。
自主減産縮小だけを見れば原油相場に下落圧力がかかるように見えますが、減産のベースである協調減産が同時進行して上昇圧力がかかっていることを考えれば、OPECプラスの生産動向がもたらす影響は差し引きすると、やや上昇だと筆者は考えています。2025年も、この傾向は継続すると考えます。
米国:「掘りまくる」には100ドルが必要
米国の事情を確認します。米国にある五つのシェール主要地区のうち、最も原油生産量が多いパーミアン地区(テキサス州とニューメキシコ州にまたがる地区)に注目します。
同地区の原油生産量は米国全体のおよそ48%です。足元の生産量である640万バレル/日量は、イランやイラク、UAE(アラブ首長国連邦)などの名だたるOPEC(石油輸出国機構)の産油国を上回る規模です。
以前の「『掘りまくれ!』で原油価格は下がらない?」でも述べたとおり、トランプ氏の「掘って、掘って、掘りまくれ!」の号令の下、リグ(井戸を掘る掘削機のこと。原油生産を行うポンプではない)をフル回転させて掘削済井戸数を増やそうとしたとしても、以下のグラフのとおり、もともと高水準にあるパーミアン地区の同井戸数を急増させることは難しい可能性があります。
図:米シェール最主要地区「パーミアン地区」の掘削済井戸数と原油相場
原油相場が2013年から2014年前半の水準である120ドル近辺に達すれば、パーミアン地区の掘削済井戸数は、毎月600基程度に達する可能性はあるかもしれません(足元450基程度)。つまり、「掘りまくれ」は、原油価格が今よりも高い水準であることが前提になっている可能性があるのです。
図:米国の原油在庫の推移 単位:千バレル
また、米国の戦略石油備蓄(SPR:Strategic Petroleum Reserve)が上記のとおり、バイデン政権下で急減しています。トランプ政権はパリ協定を再度離脱して石油の消費を増やす公算だと報じられています。
その通りになれば、石油を多用する社会→非常時の備え拡大の必要性増大→戦略備蓄の積み増し、という流れが目立つ可能性があります。戦略備蓄の積み増しはある意味、一般社会から石油を吸収すること、つまり需要拡大でもあります。
2025年1月から始まるトランプ政権2期目では、号令はかかれども、原油価格が今よりも高くならない限り、思ったほど原油生産量が増えない可能性があります。また、戦略備蓄の積み増しという需要が発生する可能性があります。全体として、米国をめぐる事情は原油相場に上昇圧力をかけ得ると、筆者は考えています。
暴落説と高止まり説、優勢なのは後者か
OPECプラスが自主減産縮小を決定したため供給が大きく増える、「掘りまくれ!」とトランプ氏が号令をかけているので生産量が大きく増える、だから2025年の原油相場は暴落する、という思惑もあろうかと思います。その結果、インフレが鎮静化するという期待もあろうかと思います。
とはいえ、市場分析には「公平さ」が欠かせません。株式市場など、思惑が優勢されやすい市場分析においては、ブーム化(正の思惑の一方通行)、総悲観(負の思惑の一方通行)が起きます。こうした性格を逆手にとってしばしば、市場関係者が思惑を創出し、それがきっかけで株価が動くことがあります。
しかし、原油などの国際商品(コモディティ)は、思惑が主要な材料になり得ません。価格上昇を望む生産者と、価格下落を望む消費者が同居しているためです。だからこそ、分析には「公平さ」が欠かせないのです。インフレが鎮静化してほしいという、消費者特有の願望を分析の柱にすることはできないのです(生産者の願望を無視することはできない)。
図:2025年のNY原油先物(月足 終値)の見通し(2024年12月16日時点)
筆者は、本レポートの序盤で示した図「原油市場を取り巻く環境(2024年後半~)」の環境が、2025年も継続すると考えます。
レポート中盤で述べたとおり、中東情勢混迷によって供給減少懸念が強まったり、OPECプラスは生産シェアと原油高を享受する巧妙な策を講じ続けたり、「掘りまくれ!」の号令がかかれども、原油相場が100ドル近辺にならない限り生産量が急増しなかったり(これまでの増加傾向は続く)、戦略備蓄増加という需要増加が発生したりするとみています。
こうした状況を考えると、2025年のWTI原油先物は、基本的には80ドルを挟んだプラスマイナス15ドル程度(想定レンジ:65~95ドル)、突発的な事象の影響を受けた瞬間的な上下を考慮するとプラスマイナス20ドル程度(想定レンジ:60~100ドル)、の値動きとなる可能性があると、現時点で考えています。
[参考]エネルギー関連の投資商品例
国内ETF・ETN(NISA成長投資枠活用可)
NNドバイ原油先物ブル
NF原油インデックス連動型上場
WTI原油価格連動型上場投信
NNドバイ原油先物ベア
外国株式(NISA成長投資枠活用可)
海外ETF(NISA成長投資枠活用可)
iシェアーズ グローバル・エネルギー ETF
エネルギー・セレクト・セクター SPDR ファンド
投資信託(NISA成長投資枠活用可)
海外先物
CFD
(吉田 哲)
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