求められる日米中銀総裁の対話力~12月金融政策のチェックポイント(愛宕伸康)
トウシル / 2024年12月18日 8時0分
求められる日米中銀総裁の対話力~12月金融政策のチェックポイント(愛宕伸康)
今週は、FRB(米連邦準備制度理事会)の12月FOMC(米連邦公開市場委員会)が17~18日に、日本銀行の12月MPM(金融政策決定会合)が18~19日に、それぞれ開催されます。FRBは0.25%の利下げ、日銀は現状維持を決定すると市場はみていますが、注目すべきは結果だけではありません。
以下では、来年の金融政策運営を占う上で見ておくべきポイントを、FRB、日銀の順に整理します。
FRBはインフレ再燃リスクがある中で0.25%利下げ
まず、FRBから見ていきましょう。今年9月に利下げに踏み切ったFRBは、11月に続き今回も0.25%の利下げを行うとみられます。金利先物が織り込む利下げ確率は、現在、98%を超えており、事前に織り込ませるというFRBのコミュニケーション・スタイルを考えても、利下げしないという選択肢はないでしょう。
問題は、インフレ再燃リスクが高まりつつあること。11月の米消費者物価指数(食品およびエネルギー除く)は前年比3.3%と、10月と同じ伸びとなりました(図表1)。「サービス」のプラス幅縮小が緩慢であるだけなく、ここにきて「財」の前年比マイナス幅が縮小しつつあります。
図表1 米国の消費者物価指数(前年比)
季節調整済みの前月比を見るより明確で(図表2)、「財」のプラス幅が0.3%まで上振れています。11月のバーゲンセールの値下げ幅が例年に比べ小さかったことが背景にあると考えられますが、それが決して単月の動きではなく、実勢そのものが上振れる中で起きているように見えます。
図表2 米国の消費者物価指数(前月比)
ポイントはパウエル議長の記者会見、ドットチャート、ターミナルレート
従って、FRBは今回利下げはしますが、パウエル議長の記者会見、経済見通しに含まれる政策金利のドットチャートやターミナルレート(利下げの最終到達点)は、タカ派に振れる可能性があります。
9月FOMCで発表された前回のドットチャートを振り返っておきますと(図表3)、政策金利予想の中央値は2024年が4.4%、2025年が3.4%で、2025年中に0.25%の利下げが4回想定されていました。市場ではこれが3回に減るのではないかとみられています。
図表3 政策金利のドットチャート
図表3右図は筆者が予想する新しいドットチャートですが、2025年末のドットはかなり分散が広がる、つまり散らばりが大きくなるとみており、利下げ回数が2回になる可能性も決して小さくないと予想しています。そうなれば、市場は長期金利上昇・ドル高で反応するかもしれません。
もう少し長い目で見た場合、ターミナルレートがどうなるかも重要です。9月に発表された前回の経済見通しでは(図表4)、政策金利(Federal funds rate)の長期(Longer run)見通しは2.9%でした。つまり、2025年中4回、2026年中2回の利下げを行ってターミナルレートに到達すると想定されていました。
図表4 9月FOMCにおける経済見通し
仮に、今回、ターミナルレートが2.9%のまま変わらなければ、2025年中の利下げ回数が3回に減ると、2026年中の利下げ回数は3回になります。
あるいは、最近、FRB高官の間で米国の労働生産性が向上している旨の発言が目立っていますが、労働生産性向上で潜在成長率が高まっているといった分析がFRB内部で行われているとすれば、今回の経済見通しでターミナルレートが上振れる可能性もあります。
もし、ターミナルレートが3.1%に修正されるようなことになれば、2026年中の利下げ回数は2回で終了ということも十分考えられます。2026年早々にFRBの利下げが終了することになれば、日本銀行の利上げ終了時期とおおむね一致することが想定されます。
植田総裁のトーン急変、日銀は12月MPMで現状維持か
一方の日銀ですが、18~19日に開催される12月金融政策決定会合で、現状維持が決定されるという見方が市場で強まっています。
これまで、このレポートでも詳しく見てきた通り、10月のサービス価格に注意を促し、その前向きな評価を伝えることを通じて12月利上げに向けた情報発信を行ってきた植田和男総裁の発言が、11月30日に日経新聞が報じたインタビュー記事で急変しました(図表5)。
図表5 最近の植田総裁の発言
こうした植田総裁の変節が、12月利上げの織り込みが進み過ぎたことを嫌がったからなのか、今年度補正予算や来年度予算案の国会審議に配慮したからなのか(図表6)、今となっては臆測の域を出ませんが、いずれにせよこの期に及んで12月に利上げを行えば、サプライズとなるのは避けられないでしょう。
図表6 最近の主な出来事
高度な対話力が求められる植田総裁の記者会見
今回、利上げが見送られた場合にポイントになるのは、経済データがオントラック(日銀の見通し通り)に推移していると評価しているのに、なぜ1月あるいはそれ以降に利上げを延期したのか、それを植田総裁が記者会見でどう説明するかでしょう。
10月の全国消費者物価指数、企業向けサービス価格、12月短観と、国内指標が軒並み良好であることに加え、米国の11月雇用統計も無難に通過し、市場も落ち着いているという情勢の下で、市場エコノミストの多くが12月利上げを妥当とみています。
ブルームバーグが今月上旬に実施した、エコノミスト52人(筆者も含まれています)を対象とするアンケート調査では、「日本の経済・物価情勢は12月の利上げを正当化すると思うか」との質問に対し、86%が「はい」と答えています。
仮に、日銀が1月に利上げしようとしているのなら、なぜ12月でなく1月なのかを説明するのは相当難しい。むしろ、1月20日にトランプ大統領が就任することを踏まえれば、市場が不安定化するリスクは1月以降の方が高いはずです。
加えて、今回植田総裁が過度にハト派色を打ち出せば、為替が円安に振れるリスクが高まります。このレポートを執筆している17日午後、為替は1ドル154円台前半で推移しています。節目である1ドル156円後半を抜ければ、1ドル160円が見えてきます。
植田総裁は、11月30日のインタビュー記事で述べたように、「2025年度の春闘がどうなるか見たい。しかし、それを待たないと金融政策が判断できないわけではない」と強調することで1月利上げを示唆するかもしれません。
そうすれば、円安に振れることを抑えられる可能性はありますが、他方で、市場の予想が1月利上げに集中し、日銀の手足を縛るというデメリットも強くなります。いずれにせよ、1月以降に利上げを延期する場合、高度な対話力が植田総裁に求められるのは明らかです。
(愛宕 伸康)
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