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FOMC後の米株急落は「過剰反応」か否か?~思惑先行の相場に変化の兆しも~(土信田雅之)

トウシル / 2024年12月20日 8時0分

FOMC後の米株急落は「過剰反応」か否か?~思惑先行の相場に変化の兆しも~(土信田雅之)

FOMC後の米株急落は「過剰反応」か否か?~思惑先行の相場に変化の兆しも~(土信田雅之)

 12月相場の「最大のヤマ場」とされる、日米の金融政策イベントを迎えた今週の株式市場ですが、FOMC(米連邦公開市場委員会)を通過した18日(水)の米国株市場は、主要株価指数(ダウ工業株30種平均、S&P500種指数、ナスダック総合指数)がそろって急落しました。

 もう少し具体的に見て行くと、前日比でNYダウ(ダウ工業株30種平均)が2.58%安、S&P500が2.95%安、ナスダック総合指数が3.56%安といった具合に、かなりの株安だったのですが、この流れを受けた19日(木)の日本株市場では、日経平均株価が0.69%安、TOPIX(東証株価指数)は0.22%安にとどまっています。

 つまり、米FOMCに対する日米の株式市場はともに下落するという初期反応だったものの、日本株よりも米国株の下落の大きさの方が際立っています。

 となると、この米国株の急落が「上昇トレンドの終焉(しゅうえん)から下降転換へのきっかけ」となるのか、それとも、「急落は過剰反応で、あくまでも調整の一部」なのかが気になるところです。

 そこで、今回のレポートでは、今回のFOMCのポイントと今後の米国株市場の見通しなどについて考えて行きたいと思います。

幅広く売られたFOMC後の米国株市場

 まずは、米国株市場の下落について今一度確認します。

<図1>米株価指数のパフォーマンス比較(2023年末を100)(2024年12月18日時点)

米株価指数のパフォーマンス比較(2023年末を100)(2024年12月18日時点)
出所:MARKETSPEEDII、Bloombergデータを基に筆者作成

 上の図1は、昨年末を100とした米株価指数のパフォーマンスの推移を示したものですが、冒頭でも触れた主要3指数(NYダウ、S&P500、ナスダック総合指数)以外にも、半導体関連株で構成されるSOX指数や、中小型株で構成されるラッセル2000なども急落し、この日の米国株は幅広く売られたことが分かります。

 また、この日の値動きをNYダウとナスダック総合指数の1分足でも確認していきます。

<図2>米NYダウの1分足の動き(2024年12月18日)

米NYダウの1分足の動き(2024年12月18日)
出所:MARKETSPEEDIIを基に筆者作成

<図3>米ナスダック総合指数の1分足の動き(2024年12月18日)

米ナスダック総合指数の1分足の動き(2024年12月18日)
出所:MARKETSPEEDIIを基に筆者作成

 上の図2と図3を見ても分かるように、18日(水)の取引開始後からの米国株市場は前日比で上昇する場面が目立っていたのですが、FOMCの結果が公表された14時(日本時間4時)を境に下落へ転じ、そして、その30分後に始まったパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の記者会見でさらに下落していくという展開となりました。

 ちなみに、18日(水)のNYダウは前日比で1,000ドルを超える下げ幅を見せたほか、約50年ぶりの続落記録(10日間)となっています。

 もっとも、今回の米FOMCについては、「0.25%の利下げが実施される一方で、今後の利下げペースが鈍化していく」という事前の予想通りの結果でした。特段のサプライズは無かったにもかかわらず、米国株市場は思っていたよりもネガティブに反応してしまった印象です。

 確かに、最近までの米国株市場は世界の株式市場の中でも強さが目立っていました。例えば、ナスダック総合指数が2万pの大台を超え、史上最高値を更新したのは今週の16日(月)だったほか、S&P500やNYダウも12月のあたまに最高値を更新する場面を見せています。

 このように、直近の米国株市場は高値をトライしていたムードだっただけに、FOMCを口実に売りが増え、株価の下げ幅が大きくなってしまった可能性が考えられます。

 2024年の米国株市場は図2が示すように好調な状況が続いていたため、すでに多くの利益を上げた投資家は多いと思われます。12月のヤマ場となる金融政策イベントを通過したことで、ポジションを手じまって、ゆっくりとクリスマス休暇を迎えるといった行動が増えてもおかしくはありません。

 もちろん、米国の株価急落には、先ほどの1分足のチャートの動きを見ても分かるように、今回のFOMC自体や、パウエルFRB議長の記者会見の内容にも理由がありそうです。

「ドット・チャート」から透ける見通しの変化

 そこで確認するのは、「ドット・チャート」と呼ばれるものです。

 ドット・チャートとは、FOMCに参加するメンバーが予想する将来の金利やGDP(国内総生産)、失業率、物価などの見通しを図にまとめたもので、年4回(通常は3月、6月、9月、12月)、FOMCの政策金利と同時に公表されます。

 実際の図は、個々のメンバーの予想値を時間軸に沿って点を描いていくという形状から「ドット・チャート」と名付けられていますが、慣れていないと読みづらいため、以下の図4は、そのドット・チャートの中央値を前回・前々回の数値とともに整理したものになります。

<図4>「ドット・チャート」の状況

「ドット・チャート」の状況
出所:FRB

 この図4で注目するのは、「金利見通し」と「コアPCE(物価)見通し」になります。ともに今回(12月公表分)が、前回(9月公表分)よりも上方修正されていることが分かります。

 今回の金利見通しについては、2025年末までに0.25%の利下げを2回しか想定しない水準となっています。前回の見通しでは4回の利下げが想定されていたため、米株市場で過度な利下げ期待を修正する動きにつながったと思われます。

 また、コアPCE(物価)についても、前回は前々回(6月)よりも低下していたのが、今回は大きく上昇に転じており、インフレの根強さが感じられる見通しとなっています。

 このように、今回のドット・チャートからは、最近までの米国株上昇の前提となっていた、「金融政策の利下げとインフレ収束の基調が続く」という期待感が後退する内容となっています。

パウエル議長からにじみ出る不透明感

 さらに、今回のFOMC後に開催されたパウエルFRB議長の記者会見では、米国経済は「非常に好調で、世界の主要国よりもはるかに良好な状態」としながらも、今後の政策運営の見通しについては、「新たな段階に入った」と明言したほか、「霧の夜に運転したり、家具でいっぱいの暗い部屋の中を歩いたりするのに似ている状況」など、先行きの不透明感をにじませる発言が多く見られました。

 こうした不透明感の背景には、トランプ次期政権への存在が大きいと思われます。

<図5>トランプ次期政権が掲げる政策への期待と不安

トランプ次期政権が掲げる政策への期待と不安
出所:各種報道などより筆者作成

 財務長官候補に指名されたスコット・ベッセント氏の登場によって、最近までの株式市場はトランプ政権のポジティブな面を反映する場面が増えていましたが、上の図5が示すように、トランプ氏の掲げる政策(規制緩和、減税、関税強化、移民対策)はいずれも、財政悪化や景気の再過熱、コスト増などのインフレ圧力につながりかねない要素を抱えていることに変わりはなく、政策を実行する順番や、その時の経済状況によって、市場への影響度が異なってきます。

 これらを受けて、米債券市場では10年債利回りが上昇し、18日(水)には4.5%を超えてきています。

<図6>米10年債利回り(日足)の動き(2024年12月18日時点)

米10年債利回り(日足)の動き(2024年12月18日時点)
出所:楽天証券WEBサイト(REFINITIV)を基に筆者作成

 一般的に、金利の上昇は株式市場にとって重しとなることが多いため、高金利の状況が続くと、株価も上昇しにくくなってしまいます。

目先の米国株市場の動きの目安は?

 そして最後に、テクニカル分析的に見た米国株市場の値動きの目安についても考えて行きます。

<図7>米NYダウ(日足)の動き(2024年12月18日時点)

米NYダウ(日足)の動き(2024年12月18日時点)
出所:MARKETSPEEDIIを基に筆者作成

 先ほども述べたように、18日(水)の株価下落が「過度な利下げ期待の修正」ならば、利下げを開始した9月のFOMC(9月17~18日)時の株価水準が意識されることになります。

 NYダウであれば上の図7が示すように、4万2,000ドル前後が下値の目安となりそうです。18日(水)のNYダウ終値は4万2,326ドルでしたので、株価はこのまま下落基調をたどっていくというよりも、ひとまずは下げ止まる可能性が高そうです。

 ちなみに、4万2,000ドルは、11月5日の米大統領選挙日の株価水準でもあるため、強く意識されそうです。

 反対に、株価が反発した際には、50日移動平均線を上抜けできるかが勝負になります。チャートを見ても分かるように、50日移動平均線が株価のサポート(支持)として機能してきました。早い段階でココを回復できないと、今度はサポートからレジスタンス(抵抗)へと50日移動平均線の役割が変わってしまうため、注意が必要です。

 2024年相場も年末まであと1週間ちょっととなりました。

 米国をはじめとする海外の大手金融機関は、相場見通し(2025年末のS&P500終値)を6,500~7,000pまでの上昇と予想する見方が多く、通常であれば株高基調の継続を期待したいところではあったのですが、今回の米FOMCを受けて、株式市場の下落が調整にとどまるのか、それとも、最近までの上昇トレンドの転換期なのかを年末から年始にかけて見極めて行くことになってしまいました。

 そのため、今年は少し厄介な年末を迎えることになるかもしれません。

(土信田 雅之)

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