2月優待人気トップ「イオン」、3-11月期は最終赤字でも長期成長ストーリー変わらず(窪田真之)
トウシル / 2025年1月14日 8時0分
2月優待人気トップ「イオン」、3-11月期は最終赤字でも長期成長ストーリー変わらず(窪田真之)
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の窪田 真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「2月優待人気No1、イオン!上期減益でも長期成長ストーリー変わらず」
消費マインド低下でイオンリテールの利益悪化
2月の株主優待人気トップ、イオン(8267)の投資判断「買い」を継続します。イオンは、総合小売業として成長するビジネスモデルを確立しつつあり、そのための構造改革が着実に進展していると考えています。
ただし、イオンが10日発表した第3四半期決算(2024年3-11月期:2025年2月期の第3四半期まで累計)で、一つ、懸念材料が出ました。長引くインフレのために国内の消費マインドが低下してきている影響を受け、前期好調だったイオンリテールの利益が悪化したことです。
第3四半期までの営業利益は前年同期比17.7%減の1,175億円でした。人件費・電気代・物流費などコストが上昇する中、売上総利益を十分に伸ばすことができず、会社想定を下回る利益となりました。店舗減損損失など特別損失を前倒しに計上したことから、最終利益(純利益)はマイナス156億円の赤字となりました。
イオン連結企業業績:第3四半期まで累計と2025年2月期通期会社予想
GMS(総合スーパー)の営業利益がマイナス192億円の赤字(前年同期は15億円の黒字)に転落しました。これには、一過性の要因(天候要因)もあります。記録的な高温で9~10月の秋冬もの衣料品が不振でした。ただ天候要因は一過性です。11月から気温低下によって衣料品販売は好調に推移しています。
GMSが不振だった要因はそれだけではありません。長引くインフレの影響で、消費マインドが低下し、食料品などで値下げや増量をしないと販売を伸ばせなくなってきている問題があります。
日本で、昨年より名目賃金の上昇率が高まっていますが、物価上昇に追いついていないことから、実質賃金【注】のマイナス傾向がまだ解消していません。
【注】実質賃金
賃金上昇率には、「名目」と「実質」がある。名目賃金上昇率とは、前年の平均賃金に対して、今年の平均賃金が何%増えたか、あるいは減ったかを計算するもの。これに対し、実質賃金上昇率は、インフレを割り引いて計算する。例えば、名目賃金上昇率が2%でも、物価上昇率が2%ならば、実質賃金上昇率はゼロとなる。名目賃金が増えても物価が上がれば、増えた賃金で買える量(購買力)は変わらない。
日本の実質賃金と名目賃金の騰落率推移:2015年~2023年(確定値)、2024年11月(速報値)
通期業績予想の達成は困難
第3四半期までの業績は想定以下でしたが、イオンは、2025年2月通期の業績予想を据え置きました。営業利益予想は、前期比7.6%増の2,700億円と最高益を更新する予想です。売上・利益が大きい第4四半期(11-2月期)で取り戻す計画です。
11月からイオンリテールは好調に推移しており、その傾向が年末年始も続いていること、これまでの構造改革の効果(店舗運営コスト削減、プライベートブランド品拡販)が出てきていることが、通期予想を据え置いた理由です。11月からの気温低下で衣料品が復調したこと、食料品も低価格PBを重視する戦略をとった効果で売上が戻ってきていることが明るい兆しです。
私は、イオンが中長期で営業最高益を更新していくビジネスモデルを確立していると考えていますが、今期(2025年2月期)に最高益を更新するのは、困難と考えます。今期営業利益は、前期比マイナス4.3%の2,400億円にとどまると予想します。
イオンの連結営業利益推移:2020年2月期~2025年2月期(会社予想)
通期の業績予想を達成するのは、やや困難と考えられます。インフレの進捗(しんちょく)で消費者の購買意欲が低下し、値下げしないと購買意欲を刺激できない環境が、下期も続く可能性があるからです。イオンの今期営業利益(市場予想)は前期比3.2%増の2,587億円と最高益を更新するものの、会社予想(2,700億円)には届かない見通しです。
ここで、前期からの営業利益の推移を、簡単に振り返ります。
【1】前期(2024年2月期)は営業最高益更新
前期はコロナからの回復が本格化するタイミングで、長年にわたって取り組んできた収益力・競争力強化の構造改革効果が出て、営業最高益を更新しました。
前期はイオンのビジネスの本丸といえる、イオンリテール(GMS事業とスーパーマーケット事業)の収益改善が顕著でした。PB品の販売拡大による粗利(売上総利益率)改善、店舗運営改善によるコストカット、インフレの恩恵が効いていました。
【2】今期第3四半期まで(2024年3~11月期)はイオンリテール不振
前期好調だったイオンリテールが不振で減益となりました。GMS(総合スーパー)が営業赤字となりました。一方、前期まで不振だった、金融(カード・銀行)、不動産(テナント収入)が回復して、全体の利益を支えました。
イオンの投資判断は「買い」
イオンは、総合小売業の勝ち組として成長していくビジネスモデルを完成させたと、私は考えています。今期は減益となると予想していますが、長期的な成長余力を高めるための構造改革は着実に進捗していると判断します。1月10日の株価3,515円にて、投資判断「買い」を継続します。
イオン株週足チャート:2020年1月2日~2025年1月10日
今後の成長期待三つの柱
イオンは、構造改革が進み、成長への期待が見えてきたと評価しています。筆者が期待する三つの成長の柱についてコメントします。
【1】イオンリテールの構造改革のさらなる進展、利益回復に期待
イオングループは、金融(カード事業)、ディベロッパー(テナント収入)、ドラッグストア(ウエルシア)で高い利益をあげる一方、イオンリテールの総合スーパー、その他スーパー、低価格スーパー事業の利益率が低いことが、重大な構造問題として意識されてきました。
イオンリテールは、収益性を高めるための構造改革を続けてきましたが、その成果が、前期(2024年2月期)に表れました。前期は、イオンの総合スーパー、その他スーパー、低価格スーパー事業の収益回復が大きく、営業利益の構成比が31%に達しました。
今期は、人件費・電気代・物流費などのコストアップに、売上総利益の拡大が追い付かず、イオンリテールの利益が悪化します。その結果、イオンの利益構成が、リテール以外で稼ぐかつてのパターンに逆戻りです。
ただし、リテールの収益力を高めるための構造改革は着実に進んでいます。将来的にイオンリテールの利益回復・成長が続き、金融・ディベロッパー・ドラッグストアに次ぐ、四つ目の成長の柱として期待しています。
(参考)イオン2025年2月期第3四半期までの事業セグメント別営業利益
【2】ヘルス&ウエルネス・総合金融・ディベロッパー事業での成長期待
イオンの今期第3四半期までの営業利益の85%を占めているのが、ヘルス&ウエルネス(ウエルシア中心のドラッグストア事業)・総合金融(カード・銀行事業)・ディベロッパー事業(テナント収入)です。この三つの柱を活用することで、総合小売業として生き残り、成長するビジネスモデルを確立したと判断しています。
総合スーパーはかつて、専門店(ユニクロや無印良品・ABCマートなど)に押されて衰退していった時代がありました。それは過去の話。今は、郊外に造られたイオンの巨大なショッピングモールは、地域でもっとも競争力の高い小売業の一つになっています(セブン&アイの「セブンパーク」も同様に高い競争力を持つ)。
イオンは、競争力の高い専門店はテナントとして積極的に取り込んでモールの魅力を高めるとともに、テナント料をとって稼ぐ形としています。テナントとして取り込まない専門店に対しては、プライベートブランド品を強化することで逆に反撃に出ています。
イオンの巨大なショッピングモールで高収益を稼いでいるのは、イオンリテール(小売業)ではなく、総合金融(カード事業など)、ディベロッパー事業(テナント料)で高い利益をあげています。金融・ディベロッパー事業を合わせて、競争力の高いショッピングモールを造って稼ぐビジネスモデルを、国内でも海外でも確立しています。
モール外では、ドラッグストア「ウエルシア」が高収益を稼ぎ、調剤部門が利益成長に貢献しています。ドラッグストアの利益は、ヘルス&ウエルネス部門に含まれています。
今期第3四半期までは、ヘルス&ウエルネス・総合金融・ディベロッパーの3部門で、イオンの営業利益の85%を稼いでいます。イオンリテールの収益が低くても、3事業を合わせて、高収益を実現しています。
総合金融・ディベロッパー事業については、海外展開も含め、今後さらに成長余地があると考えています。
【3】アジアでの成長期待
イオンのアジア事業は、日本と同様、コロナ禍のロックダウン(都市封鎖)で一時大きなダメージを受けました。今は、日本と同様、リオープンが進む中で利益が回復しています。
ただ利益が回復するだけではなく、売上収益の一段の成長が見えてきました。特にベトナム事業の成長加速が期待されます。ホーチミン・ハノイに加えて中部の中核都市フエに出店したことが、貢献すると考えられます。一方、不動産不況が続く中国は、売上が不振です。
(参考)イオン2025年2月期第3四半期までの地域別営業利益
小売企業の海外利益構成比が3割を超えると、投資家の見る眼が変わります。海外で成長する小売企業として見られるようになります。イオンはまだ、ドメスティックな(国内中心の)小売業とみなされています。海外の利益がもっと拡大し、安定的に営業利益の3割以上を占めるようになれば、海外で成長する小売業と見られるようになると考えています。
なお、上記の地域別利益は、イオンリテール(小売事業)だけでなく、総合金融・ディベロッパー(テナント収入)事業の利益を加えたトータルでの海外利益の構成比です。海外も国内と同様、小売事業だけでは収益性が高くないが、総合金融、ディベロッパー事業を加えて、収益性を高めるスタイルを確立しつつあります。
2月・8月の優待人気トップ
イオンは「株主優待」人気銘柄として有名です。楽天証券「株主優待検索」で長年、2月・8月の優待銘柄で人気トップ【注】の座を維持しています。優待内容は、以下からご覧いただけます。
【注】2月・8月優待で人気トップ
2月・8月に株主優待を得る権利が確定する銘柄は177あります。楽天証券のお客さまで保有している株主の数が多いほど「人気が高い」と判断し、保有株主数の上位銘柄をランキングしています。2月・8月優待で、人気トップはイオン、第2位はイオンモール(8905)、第3位はビックカメラ(3048)です。
私のイオンの投資判断は「買い」です。株主優待を楽しみながら長期保有するのに理想的な銘柄と判断しています。
最後に、私の著書の紹介です。ダイヤモンド社より、株価チャートの読み方をトレーニングする「株トレ」(黄色の本)と、決算書の見方など学ぶ「株トレ ファンダメンタルズ編」(水色の本)が出版されています。どちらも一問一答形式で株式投資の基礎を学ぶ形です。
「2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ」
「2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ ファンダメンタルズ編」
▼著者おすすめのバックナンバー
2024年9月11日:優待投資:イオン、JR東日本、KDDI…長期保有したい3銘柄と、失敗しない6つのポイント(窪田真之)
2024年4月11日:総合小売業の成長企業イオン!「買い」継続。2期連続で営業最高益へ(窪田真之)
2023年4月19日:イオンの買い継続。優待人気トップ、総合小売業の勝ち組として成長期待
(窪田 真之)
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