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「笑われる奴」「バカにされる奴」こそ最大の脅威だ イノベーターを育てる「漫才学」のすゝめ

東洋経済オンライン / 2023年12月2日 10時0分

毎年現場でM-1の準決勝と決勝戦を見ている中村伊知哉氏が、『M-1はじめました。』を読んで感想を寄せた(写真:Fast&Slow/PIXTA)

12月24日に行われる「M-1グランプリ」の決勝戦に向けて世間の期待と漫才熱が高まる中、2001年にM-1を立ち上げた元吉本興業の谷良一氏がM-1誕生の裏側を初めて書き下ろした著書『M-1はじめました。』が刊行された。

コンテンツ産業に造詣の深い、情報経営イノベーション専門職大学(iU)学長の中村伊知哉氏は、本書が「M-1創設ドキュメンタリー」であるだけでなく、「プロジェクト・マネジメント教書」でも「一級の漫才論」でもあると言います。

「インフラ」になったM-1

今年も「M-1グランプリ」の季節となった。クリスマスイブの決勝をフィナーレに、過去最多の8540組が参加する漫才の頂上決戦。

【写真を見る】M-1グランプリをつくった元吉本社員がその裏側をすべて語る本

8月に1回戦が始まり、2回戦、3回戦、準々決勝、準決勝を経て、決勝には10組が登壇し、王座を競う。2001年にスタートして、4年の休みをはさんで今回が19回目の戦い。21世紀の日本が生んだ発明品である。

本書は、谷良一元吉本興業ホールディングス取締役によるM-1創設ドキュメンタリー。

うらやましい。こんな仕事に携われるなんて。M-1は1番組じゃない。1イベントじゃない。インフラである。今や漫才は先端の表現で、M-1は憧れる若者の頂点であり、全国の挑戦者が集うプラットフォームである。

22年前に開始したプロジェクトが歴史に刻まれる文化にまで育った。そのころ漫才は過去のものになっていて、「前の漫才ブームはたった2、3年で」終わった。のに、「M-1は普通名詞に」なり、「今や漫才師が出ていない番組を探すのが難しい」状況を作り、「ブームではなく、完全に定着した」。全関係者による、偉業だ。

マンザイ。サンパチマイク1本、自分たちで作品を作り、2人で対話するだけの原始的な表現。それで数百万人を爆笑させる。世界にない表現だ。ピン芸やコントは欧米はじめ各地にあり、中国にも似たエンタメはあるが、日本は際立った洗練をみせ、高度な芸に昇華させた。

M-1は練り上げた4分のネタで勝負する年に一度の機会。世界トップの座を狙うのだ。結成15年以内のしばりがある8540組の出場者のほとんどは漫才では食えず、バイト暮らしやプーだったりする。だが優勝者は一夜にしてスターとなる。決勝に進めば景色が変わるという。ストイックな戦場だ。

漫才になだれ込むトップ層

かつて才能あふれる若者は、小説、芝居、映画、音楽、ゲームへと身を投じてきた。創造力がほとばしり、表現力に覚えのある奴らは、ペンに魂をかけ、ギターをかき鳴らして叫び、カメラを担いで走った。

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