非西欧的価値観と衝突したキッシンジャーの限界 世界を「西欧的価値観」で普遍化しようとしたが…
東洋経済オンライン / 2023年12月6日 9時0分
しかし、なぜこれがうまくいかなかったのかという点において、アントニオ・ネグリとマイケル・ハートの『〈帝国〉グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性』水嶋一憲他訳、以文社、2003年)は、興味深い問題を提起している。この書物が書かれたのは、あの9.11(同時多発テロ)の時期で、西欧的価値観を覆す、中東のアルカイーダがアメリカを急襲したときである。
ウェストファリア条約の盲点
それはこのウェストファリア条約の中では、これに調印した国にのみ、国際社会の秩序が与えられるのであり、そうでない国や地域はその外に置かれるということだったからである。ロシアやオスマントルコはこの外にいたし、ましてアジア・アフリカ・中南米の国はまったくの圏外にあったのである。
だから、西欧諸国がアジア・アフリカに行ってどんな残虐なことをしようと、それは国際法の外にあり、いかに残酷なこともそれらの地域の住民にできるという抜け道をつくっていたのである。
それは民主的政治形態や人権においても。すべからく、ウェストファリア条約圏の外では、まったく実現されることはなく、人間性を無視した野蛮な行為がどうどうと正当化されることを、承認していたわけだ。
ネグリとハートは、むしろこの例外の部分にこそ、ウェストファリア条約という西側の価値観の大きな問題点があったと考える。ウェストファリア条約の勢力均衡は、その圏外に対する支配を生み出し、それが西欧的価値観に対する嫌悪を、彼らに支配されてきた非西欧の人々の中に生み出していく。
キッシンジャーは、西欧世界の飛び地でもあるアメリカがヨーロッパの勢力均衡的価値観を世界に流布する役割を負っていると考えているが、そのことはとりもなおさずアメリカに西欧的価値観を流布するミッションが与えられていることである。
そうなると、この価値観を理解しえない国や地域との関係どうするかということが問題になる。これこそキッシンジャヤーが外交として挑んだ対象であった。
中国やベトナム、そしてソ連や中東、チリは、まさにこうした西欧的価値観の外にあった国である。アメリカが民主主義のミッションにこだわれば、そこにはつねにアメリカと非西欧社会との対立が生まれる。
この対立を避けるには、非西欧の多様性を認めるべきなのだが、ニクソン政権が行ったことは、アメリカという軍事、経済、政治のパワーにおいて世界に並ぶもののない力を世界に誇示したことであり、それと同時に譲歩もしながら、やがて西欧的価値観に変貌する時を待つという作戦であったともいえる。
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