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非西欧的価値観と衝突したキッシンジャーの限界 世界を「西欧的価値観」で普遍化しようとしたが…

東洋経済オンライン / 2023年12月6日 9時0分

1975年12月、当時のフォード・アメリカ大統領(中)に同行して訪中したキッシンジャー国務長官(右)が中国の毛沢東と握手をしている(写真・Gerald R. Ford Library/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)

キッシンジャーが亡くなった。良くも悪くも、100年を生き続けた類いまれな政治家であったことは否定できない。人の評価には毀誉褒貶がつきものだが、それはどこから人を判断するかによる。

スコットランド出身のジャーナリストであるニーアル・ファーガソンの伝記『キッシンジャー』全2巻(村井章子訳、日経BP社、2019年)のように、ありとあらゆる資料を読み、この人物をきちんと評価するべきかもしれないが、私はキッシンジャーが外交を展開した非西欧の国々の立場からみてみたい。

アメリカという理想像の終焉

キッシンジャーといえば、1973年のチリのピノチェトによるクーデタと、ベトナムからのアメリカ軍の撤退を思い出す。この2つの出来事は流れとしては真逆のことであるが、それは21世紀にいたる歴史の曲がり角を示している。アメリカという理想像の終焉である。

それはベトナム戦争の敗北で、アメリカという絶対的権力が衰退したことと、そしてチリという新しいクーデタによる政権を強引につくり、新自由主義の実験を行い。20世紀後半に向けてのアメリカの復活の実験を行ったことである。

キッシンジャーはバランス・オブ・パワー(勢力の均衡)を旨とする外交家だと言われる。1971年の突然の中国訪問、そしてソ連東欧圏との雪解け、デタントなど、八面六臂の活躍をしたのがキッシンジャーだ。

勢力の均衡という考えは、1648年のウェストファリア条約から来ている。つい最近出たキッシンジャーの書物『国際秩序』(伏見成蕃訳、日経ビジネス文庫、2022年)の冒頭で、こう述べている。

「私たちの時代に秩序として適用しているものは、4世紀ほど前に西欧で編み出された。ドイツのヴェストファーレンで開かれた和平会議がそれにあたる。他の大陸や文明諸国はほどんと関与せず、認知してもいなかった」(10ページ)

「力の均衡が状態となり、望ましいと見られれば、各支配者の野望の釣り合いがとれて、理屈の上では紛争の規模が制約されるはずであった」(11ページ)。

そして彼は、こうした勢力均衡の価値観は現在の西欧の基本的価値観を形成し、それが今の国際社会の価値観になっていると述べる。そしてそれが世界に普及したのは、植民地の人々でさえ、この価値観で民族独立を主張したからであると。

なるほど、少なくとも西欧と日本のようなこの価値規範によって独立した地域は、国際法に縛られ、簡単に戦争などできない。だからこうした勢力均衡を世界に普及すれば、世界は安定する。

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