ロードスター「いらない子」と言われた車の奇跡 苦境をはねのけライトウェイト復権の立役者へ
東洋経済オンライン / 2024年1月3日 12時0分
その中の1つがユーノス・ロードスターであり、今のロードスターとなる。
シーマ、NSX…、高級・高性能が求められた中で
1980年代終盤の日本は、豪華で高性能なクルマが人気を集めていた。
1988年に発売された日産の高級車「シーマ」は、驚くほどのヒットを記録し、「シーマ現象」とまで言われた。ホンダからは和製スーパーカーとして初代「NSX」が1989年に発表、翌1990年に発売になった。
当時、日本車最高の280馬力を達成した日産「フェアレディZ(Z32)」も1989年に生まれていたし、「スカイラインGT-R(R32)」も同じ1989年の発売だ。
そんなバブルの喧騒の中、1989年9月にユーノス・ロードスターが誕生した。1.6リッターのエンジンの最高出力は、わずか120馬力。内装は質素そのもの。しかし、価格は174万8000円からと安かった。
豪華で高性能なものが好まれる世相をよそに、ロードスターは大きな反響を呼んだ。予約抽選のため、ディーラーの前に夜通し並ぶ列ができるほどの騒ぎとなった。これは、200万円を切る、誰もが手にできる価格設定であったことが大きいだろう。これもまた、ライトウェイトスポーツだからこその理由だ。
そんな初代ロードスターは、バブル崩壊などにも負けず、8年間のモデルライフの中で約43万台が生産される、文句なしのヒットモデルとなった。
その間には、BMW「Z3」、メルセデス・ベンツ「SLK」、ポルシェ「ボクスター」、フィアット「バルケッタ」、「MGF」といった、さまざまなオープン2シーターが登場。絶滅状態にあった市場を再び盛り上げた。
各車ともロードスターのヒットを追うように、1995~1996年ごろに登場している。FFやMR(ミッドシップレイアウト)など、レイアウトはさまざまだが、軽量なオープン2シーターという点では共通する。
1989年に登場したロードスターが、1990年代に新たな市場を生み出したといえるだろう。オープン2シーター文化を復権させたといってもいいかもしれない。いずれにしても、ロードスターなしに1990年代の自動車文化は語れない。
ロードスターはその後、1998年に第2世代(NB型)、2005年に第3世代(NC型)、2015年に現行の第4世代(ND型)へと続いてゆき、マツダのブランドを象徴するクルマとなったのはご存じのとおりだ。
ライトウェイトスポーツの神髄
ロードスター最大のポイントは、世代が変わっても、「軽く」「安価」「後輪駆動(FR)」「幌のオープンカー」というライトウェイトスポーツの神髄を守り通したこと。その神髄を武器に、いわゆる「失われた20年」という日本の不景気の時代も、しぶとく生き延びたのだ。
また、初代ロードスターが提唱した「人馬一体の走り」は、いつの間にかマツダ全体の特徴にもなっていた。「人馬一体」もまた、ライトウェイトスポーツならではの魅力だ。
ライトウェイトスポーツという本質を守り続けたことで、ロードスターがマツダというブランドを象徴する存在にまで成長したのである。
振り返ってみれば、「車種が足りない」「空前の好景気」「マツダの5チャンネル拡大路線」という背景がなければ「ロードスター」が生まれることはなかっただろう。時代が生んだ奇跡の存在。それが「ロードスター」と言えよう。
鈴木 ケンイチ:モータージャーナリスト
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