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ケインズが描いた平和/戦争と経済のしくみ 二度の世界大戦を経て築かれた国際経済の基盤

東洋経済オンライン / 2024年1月10日 9時0分

が、それより重要なのは中身の話だ。ドイツがヴェルサイユ条約で定めようとしている賠償金など支払えないという点、そしてそれをゴリ押しすればヨーロッパ全体が飢餓と荒廃に陥るしかないという主張はどこまで妥当だっただろうか。

本書の4年ほど後に出た続編『条約の改正』では、恐れていたような即座の大惨事が逃れられたことは指摘されている。これは農作物の豊作などの幸運もある。一方で、本書での多くの見積りがおおむね正しく、それを受けて、確かに賠償金は多すぎるので、少しずつ現実的な水準まで減らそうという動きも見られることが述べられているし、またその後1920年代を通じて、その動きはさらに強まってドイツへの賠償要求は引き下げられた。おおむね彼の主張は、世界的な共通認識となったと見てもいいのかもしれない。

だが本書が一般的に評価されているのは、その先の部分だ。本書では、賠償金を無理強いすることでインフレが加速し、経済の貧窮堕落につながって、ドイツにおけるナショナリズムや社会主義の拡大を招きかねないという懸念が出ている。

そしてご存じのとおり、この後のドイツは本当にハイパーインフレに襲われ、それを抑えようとして緊縮財政に走ったことで国内の不満が高まり、それがナチス台頭を招いてしまったとされる。そのナチスは本書で懸念されているナショナリズムまたは社会主義どころか、その両方を魔合体させてしまった国家社会主義なる代物の政党だったというのも、すごい話ではある。

その意味で、本書はしばしばナチス台頭と第二次世界大戦を予見した、きわめて予言的な書物だとされ、それがいまだに本書がしばしば取り沙汰される理由ともなっている。

敗戦国に甘すぎるという批判

その一方で、本書に対する批判も(もちろん)存在する。

悪役にされたフランスは、クレマンソー当人をはじめ大いに反発したらしいし、またボケ役にされてしまったアメリカからもいろいろ文句は出たようだ。そもそも、会議の内幕を暴露すること自体が信義に反するものではないか、という批判も見られたらしい。ケインズとしては、中身の数字はすべて公開資料に基づいていると言うが、各人のふるまいについての描写はその範疇を大きく超えるものではある。

そしてそれ以上に、ケインズの見立てはドイツに甘い、という主張もあった(ある)。そうした主張によれば、ドイツはヴェルサイユ条約の賠償金くらいは優に払えた、それが証拠に、ドイツはなんだかんだで10年で再軍備して世界相手に戦争まで起こせたじゃないか、と言う。さらに戦後ドイツのインフレはワイマールドイツの放漫財政のせいで、賠償金とは関係ない、とも言う。ケインズがドイツに洗脳とは言わずとも影響されていたのだ、と。こうした主張の成否をここで掘り下げる余裕はない。

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