日本人が知らない台湾の選挙の底層にあるもの 台湾選挙のリアル(最終回)、「地方派閥」と「政治家族」
東洋経済オンライン / 2024年1月12日 8時0分
2020年実施の選挙では蔡英文が57%の得票率で圧勝したが、立法委員の比例代表では民進党が34%、国民党が33.3%とそれほど差がなく、有権者の「分裂投票」が見られた。今回は民進党と国民党の得票率がほぼ拮抗し、国民党が地方区でより多くの議席を得ると予想されている。
これについて王教授は、次のように説明する。
「総統選は政治理念と方向性に対する選択、立法委員は地方の懸案処理と政権への牽制機能を持たせるという考えが重なり合うため、双方の選挙に大きな関係性はない。今回も総統選と総選挙では、ある程度の得票率の差が生じるだろう」
さらに、外国メディアが台湾の選挙に関して見落としがちな視点がある。台湾の、とくに南部に残っている「地方派閥」(中国語で「派系」という)と「政治家族」のことだ。
1949年、国民党政府が大陸から台湾へ移った後、台湾の地方の統治をより円滑にするために、地方ごとに特定団体(連合会)や一族(家族)に対し、採石場やガス、アスファルトといった事業に関連する資源やサービスの権限を独占的に与えた。
いわば、大陸から来た「外省人」(国民党とともに台湾に移住してきた人とその子孫)政権が地方にある台湾の「本省人」(国民党が来る前から台湾に住んでいる人とその子孫)団体との間に一種の「恩恵服従関係」、すなわち「私が利益を与えるから、あなたはそれを受け入れて政権に抵抗するな」といった関係が形成された。
「地方派閥」と「政治家族」の存在
地方で独占経営権を持つ派閥は経営規模を拡大し続け、1980年ごろから地方選挙を通じて政界に進出し始めた。このため、経済と政治の人脈が同時に開かれた。
自分の政治権力で自分の会社が公共事業などを受注できるようにし、それによって得た利益を地方への支援金や補助金として有権者と分けるようになった。地方にある宗教団体や農協や漁協といった団体、さらには賭博場、はては組織暴力団体とも協力関係を結び、「互恵共生システム」を構築していった。
このため、地方の農村では“効率的”な請願処理システムが生まれた。派閥の構成員は随時、地区をモニタリングし、ある家庭に問題があれば解決に力を貸し、またある家庭で葬式をしなければならなければそれを手伝ったり、とそういった日常生活での問題を処理することで影響力を高めていった。
さらには、選挙が近づくと票を得るために時にはわいろを使って地盤固めを行った。人情を基に作られたこのシステムで、地方派閥出身の候補者は各選挙区で大きな支持を受け、強い影響力を維持した。
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