M-1が兼ね備える「成功プロジェクトの共通点」 経営学者・楠木建氏がM-1創設者と漫才を語る
東洋経済オンライン / 2024年1月14日 11時30分
谷 良一(たに・りょういち)/元吉本興業ホールディングス取締役 1956年生まれ。京都大学卒業後、1981年吉本興業入社。間寛平などのマネージャー、「なんばグランド花月」などの劇場プロデューサー・支配人、テレビ番組プロデューサーを経て、2001年漫才コンテスト「M-1グランプリ」を創設した(撮影:今井康一)
令和ロマンの優勝で幕を閉じた「M-1グランプリ2023」。今回で19回目を数えるこの大会は、下火になっていた漫才を立て直すべく、元吉本興業社員の谷良一氏がゼロから立ち上げたものでした。
谷氏がM-1創設の裏話をつづった『M-1はじめました。』は、一つの新規事業の立ち上げ物語として読むこともできます。30万部を超えるベストセラーとなった『ストーリーとしての競争戦略』で著名な経営学者の楠木建氏が本書を読み、経営学的な視点から谷氏と語り合いました。
前編に続き、後編をお届けします。
なぜM-1は長続きしているのか
楠木:M-1は1回目からハイレベルで、手応えもあったと思いますが、これほど長く続くとお考えだったのでしょうか。
【写真を見る】M-1グランプリをつくった元吉本社員がその裏側をすべて語る本
谷:過去の漫才ブームは2、3年だったので、このときも同じで、短い時間で終わってしまうのは嫌やな。5年やれて、その間にブームを起こせていれば満足、くらいに思っていました。ところが、3年過ぎても、5年過ぎても、下火にならなかった。
楠木:そこは一番聞きたかったことの1つですが、1980年代の漫才ブームは立ち上がりが早いけれど、盛り下がるのも早かった。消費され尽くして終わるテレビ・コンテンツの典型的パターンです。M-1は今に続いていて、ブームといえないほど、エンタメの大きな部分として定着しました。何が違ったのでしょうか。
谷:過去のブームは、プロ野球が雨で中止になった予備の番組として、フジテレビで「THE MANZAI」が放送されて、その翌日から、漫才師は突然、キャーキャー言われるようになったのです。
みんな初めての経験でわからない中で、「笑ってる場合ですよ!」とか「オレたちひょうきん族」とか漫才番組がいっぱいつくられて、漫才師も出るようになる。もう少し抑えぎみにすればよいのでしょうが、吉本側も慣れていなくて、スケジュールが埋まっていても、そこを何とかと頼まれる。それで一気に消費され尽くしてしまった。
あとは、デビューして3年や5年くらいの漫才師は、ネタを作れなかったこともあるみたいです。新ネタを作らないと飽きられるとわかっていても、暇がないので、ついついいつものネタをやる。それでもまたウケる。まだいけるのかなと思って先延ばしにして、気づくと飽きられていた。M-1は年1度のすごく長いストーリーなわけで、それが逆によかったのでしょう。
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