M-1が兼ね備える「成功プロジェクトの共通点」 経営学者・楠木建氏がM-1創設者と漫才を語る
東洋経済オンライン / 2024年1月14日 11時30分
「爆笑レッドカーペット」は漫才を壊す
楠木:真剣勝負でネタの準備からトレーニングまで行うことは、単純に目先の需要に応えることに対する一定の規律になったのかもしれません
谷:そうですね。ちょっとブームになったときに、「爆笑レッドカーペット」のように、ネタの一部を30秒とかに切り取って、笑いのギャグの部分だけをオンエアする番組が多く出てきました。あれは本当に漫才を壊すので、絶対に嫌でした。M-1は年1度だし、その間に、来年に向けて、いいネタづくりができます。
楠木:そして、本当に笑いがわかっている人が審査すると。それから、最初から別室審査では、本当の審査っぽくないから駄目だと。スポーツ競技のようにお考えだったのですね。
谷:紳助さん自身が若いときに新人コンテストに出て、わけのわからんヤツに審査されて、えらそうに言われて、落とされた経験があったのですね。なんでお前が漫才のことを言えるんだ、みたいな気持ちがあったと思います。
楠木:M-1は定着して、優勝すると、国民的なニュースとしてわっと知られるようになっています。今から見ると、テレビ的によくできたコンテンツで、途中のドラマとか、去年はどうだったとか、いろいろなストーリーを乗っけて楽しめます。
それでも、テレビの人たちは最初、テレビに合わないと思ったわけですよね。もっとドラマ仕立てにしたり、ドキュメンタリーで、親が死にそうな人はいないか、とか。当時の状況を考えると、いろいろなハードルを越える必要があったと思いますが、それでも「M-1はこういうものだ」というコンセプトは貫いているところに感心しました。
谷:とりあえず漫才を盛り上げるためには、漫才を見てもらわないといけないけれど、コーナーの1つとしてお茶を濁す程度に20、30分やるだけでは、漫才のおもしろさが1個も出てこない。ガチンコで漫才師が漫才をやるのがおもしろいので、それを番組にしてほしいんだと。
ただ、テレビマンとしては、そんな名もない若手の漫才師で、しかも漫才をやるだけではおもしろくないし、視聴率がとれない。正常な判断だと思うんですけどね。
成功するプロジェクトはブレない
楠木:これまでのお仕事の経験からテレビ側の立場もわかるけれど、初めに決めたコンセプトをぶらさなかった。僕はいろいろな商売を傍から観察しているだけですが、目先の反応でコンセプトを崩したり、ブレたりすると、結局ダメになる。それが成功するプロジェクトの共通点だと思います。
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