大川原化工機「冤罪事件」、国と都がまさかの控訴 捜査・立件を主導した「渦中の人物たち」の今
東洋経済オンライン / 2024年1月16日 8時0分
大川原化工機の装置は、経産省の輸出許可が必要な機器ではそもそもなかった。つまり公安部による事件の捏造に、東京地検は結果として加担し、ずさんな捜査を追認していたのである。
渦中にある公安部、経産省、地検の人物たち
大川原化工機事件の捜査を指揮したのは警視庁公安部外事1課の宮園勇人警部(肩書は当時。以下同じ)だった。「海外の“あるべきではないところ”で大川原化工機の噴霧乾燥器が見つかった」と事件の構図を描いた。公安部は30人規模の捜査チームを結成した。
捜査チームの一員で宮園警部の忠実な部下の1人・安積伸介警部補は立件に向けて「捜査メモ」や「聴取結果報告書」を大量に作成した。
安積警部補は、大川原化工機の島田順司取締役に、殺菌の解釈を誤解させたうえで供述調書に署名捺印するように仕向けた。島田氏の逮捕直後の「弁解録取書」を作成する際、島田氏の指摘に沿った修正をしたように装い、実際には島田氏が発言していない内容の同書を作成し署名捺印させていた。
経産省の窓口となった安全保障貿易管理課のT検査官は「大川原化工機の噴霧乾燥器は生物兵器の作成装置に転用できない」「したがって輸出規制製品に非該当」とかたくなだった。
そこで、宮園警部は警視庁公安部長から経産省に圧力をかけるよう画策する。
「公安部長が動いた」
そう上司に聞かされた経産省の笠間大介課長補佐(下図では「K課長補佐」)は「ガサ(家宅捜索)はいいと思う」と公安部に譲歩した。笠間課長補佐はT検査官の上司である。経産省は輸出規制を所管しており、警視庁公安部外事1課からは規制当局の立場から違法性の認識を求められていた。
東京地検は逮捕の1年半前から、同地検の塚部貴子検事は逮捕の9カ月前から、継続的に宮園警部から相談を受けていた。「5人の従業員が『装置に残った菌は殺すことができません』と言っている」と別の検事から聞いても、塚部検事は意に介さなかった。実際の装置を見ることもなく、大川原社長ら3人を起訴したのである。決裁したのは当時、東京地検の検事正だった曽木徹也検事だった。
捜査・立件を主導した人たちは出世
大川原化工機事件を立件した公安部外事1課は警察庁長官賞と警視総監賞を受賞。捜査員ら15人が総監賞で個人表彰もされた。総監賞では1万円の副賞も各人に授与された。
捜査を指揮した宮園警部は警視に昇任し現在は亀有署に勤務。安積警部補は警部に昇任し蒲田署にいる。
一方、「従業員が『温度が低くなる』と言っている。もう一度測ったほうがいいのでは」と宮園警部に進言した時友仁警部補は、警部補のまま野方警察署に異動した。
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