「半導体ウェハー2強」信越とSUMCOで株価に明暗 2023年上昇率は信越が70%超、SUMCOは19%
東洋経済オンライン / 2024年1月17日 7時0分
こうした違いはどこから来るのか。要因の1つとして、野村証券の岡嵜茂樹アナリストは売り上げ構成に着目する。「SUMCOは韓国のサムスン電子向け売り上げが比較的多いのに対し、信越のメモリー顧客はバランスが取れている」(岡嵜アナリスト)。
2024年のメモリー市場で注目されているのは、高性能半導体に搭載されるHBM(高帯域幅メモリー)と呼ばれるメモリーだ。メモリー市場全体に占める割合は多くはないものの、AI半導体をはじめ高性能半導体のニーズが拡大するにつれて、HBM需要も急激に高まっている。
この分野では韓国の大手メモリーメーカーであるSKハイニックスが一歩リードし、サムスン電子は出遅れている状況。HBM需要をめぐって、顧客の動向にウェハー需要の見通しが左右されているという面はありそうだ。
2社の株価上昇率の違いは「経営力」の差にあるとの見方もある。
下の図は、両社の前年比での営業利益の増減率を表したものだ。0%のラインを超えていればその年度は前年度比で増益、下回っていれば減益だったことを示す。塩化ビニル樹脂なども手がける信越については、ウェハーを手がけるセグメントの数値を基にした。
利益の安定性の違いは一目瞭然。信越のウェハー事業は、半導体市況で数年おきに繰り返す「シリコンサイクル」の谷の時期であっても安定的に利益成長を続けている。対するSUMCOの業績は、好不況の波に大きく影響されて極端に変動している。
投資タイミングの正確さ
信越は、業績が安定している理由について「顧客と長期契約を結んでいるため」と説明する。これは、供給するウェハーの数量・価格を数年先にわたって事前に取り決めるものだ。
SUMCOも現在は、主力の300ミリウェハーでの長期契約比率が100%。橋本会長は「(市況の低迷局面でも)顧客には数量と価格は厳守してもらっている」と決算説明会のたびに説明している。それでも利益変動が大きくなるのは、好況期により多くの需要に応え、不況期にはその反動減の影響を受けるからだ。
長期契約は今や業界全体での主流。ただし信越は、比較的早い段階から取り組み始めていたとされる。
加えて前出の岡嵜アナリストは、業績の安定につながる点として「信越は先を見据える力が格段に高く、投資タイミングの正確さでも市場からの信頼が厚い」と話す。2019年の前回の半導体不況時にもその先見性が発揮された。
2017年まで半導体業界は活況に沸いており、ウェハー需給も逼迫していた。この時にSUMCOは半導体メーカー側からの要請もあり、当時約10年ぶりとなる増産投資を決定した。だが稼働直後の2019年に市況が暗転。2020年にかけて大幅な減益に見舞われた。
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