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シリコンバレー、他国がまねても失敗する根本理由 表面だけを見ていてはわからない深い背景

東洋経済オンライン / 2024年1月18日 11時1分

だがならなかった人はもっと多い。政治と金融の権力からはるかに遠い、快適で怠惰な北カリフォルニアで活動していた人々は、起業家のガラパゴスを作りだした。そこには新種の会社が生まれ、独特な企業文化の流派も生じ、ある程度のヘンテコさに対する寛容も見られた。

そこは賢い人だらけだったが、ほとんどは他所からきていた――アメリカの反対側の端、地球の裏側などだ。そしてお馴染みのものをふりすてて、未知のものに飛び込む意欲を持っていた。ある古参のハイテク業界人が夢見るように語ってくれたように「負け犬どもがみんなしてここにきたんだ。そして奇跡的にそいつらが成功した」。

シリコンバレーと金融や政府のハブ――東海岸のツタのからまるアイビーリーグ大学は言うまでもない――との地理的、精神的な分断は、その大きな長所でもありアキレス腱でもあった。イノベーションは、小さくて緊密にネットワークされたコミュニティ内で起こり、そこでは友情と信頼が、専門的なリスクを取って、専門的な失敗を容認する人々の意欲を高めた。

だがシリコンバレーの緊密なサークルは、工学と金融の世界がすべて白人男性だけの時代に生まれたので、極度のジェンダーと人種的な不均衡が織り込まれることになった――このため、どんな製品を作るか、どんな顧客に奉仕するかについての視野が狭まった。

近視眼はそれに留まらなかった。シリコンバレーの工学支配的な文化は、すごい製品を作って市場を広げることだけに対する、妄執じみた専念をもたらし、結果としてその他の世界にはほとんど関心を向けなかった。政府の制度機関や旧弊な産業の仕組みなんか、気にする必要などないだろう。そいつらをひっくり返し、はるかによいものをもたらすのが目標なんだから。未来を作っているんだから、過去のことなんか気にするまでもない。

「ニューエコノミー」と「古い経済」の深い絡み合い

だがここでもまた、革命の現実は革命の神話とはちがったものとなっている。門番の守衛どもを押しのけ、頑固な権力構造を解体し、ちがった考え方をしようという決意は確かに強かったが、ハイテクの「ニューエコノミー」は古い経済と深く絡み合っていたのだ。

ベンチャー資本はロックフェラー家やホイットニー家や、労働組合の年金基金からきていた。マイクロプロセッサは、デトロイトの自動車やピッツバーグの製鉄の原動力となった。1970年代のスタグフレーションと1980年代の脱工業化の中で、アメリカのすべてがもっと希望に満ちた経済ナラティブを求めていたとき、旧弊なメディアと旧弊な政治家たちはハイテク企業をほめそやし、そのリーダーたちをセレブに仕立てた。

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