人手不足を嘆いても人員補充されない「食い違い」 人手不足によるインフレ圧力は本当に強いのか
東洋経済オンライン / 2024年1月18日 8時30分
おそらく、主観的に設定された基準の間違いが日本の至る所で生じているのだろう。人口減少社会において、主観的な「人手不足感」が強まる動きは終わることはなさそうである。
現実のデータは、それほど「人手不足」ではない
客観的な「人手不足」のデータとしては、有効求人倍率などの労働統計が挙げられる。
有効求人倍率は求人数を求職者で除して計算されており、これは実際に企業が提出した求人数のデータに基づいている。すなわち、雇用人員判断DIが企業の「人手不足感」を表しているのに対し、有効求人倍率は実際の「人手不足」を表しているということができるだろう。
前述した売上高が減少したプロジェクトチームの例で考えれば、現場レベルでは「人手不足感」があったとしても、冷静に市場規模を分析している経営企画部などでは需要の減少を把握し、「無理に人員補充をすべきではない」と判断している可能性があるだろう。
「人手不足感」が高まったとしても、有効求人倍率が高まらない可能性は十分にある。
実際に、有効求人倍率は2018~2019年と比べて低い状態となっている。「人手不足感」の統計である雇用人員判断DIとの乖離は大きい。
むろん、有効求人倍率も完璧なデータとは言えない。
前述したように、「人手不足感」とは程度に差がある連続的な概念であるため、ある求人が「本気の求人」なのか、「いい人が見つかったらラッキー」くらいのものなのか、という違いもあるだろう。求人件数の統計では、これらの差異まではわからない(求職側も同様に、本気度まではわからない)。
また、調査範囲の限界もある。
そもそも有効求人倍率はハローワークにおける求人・求職のデータを集計したものであり、入職者のうち2割程度にすぎない。インターネットやアプリを経由した求人情報や、社員の紹介を介したリファラル採用の需給バランスは反映していないなどの点には注意が必要である。
もっとも、例えば広告経由の入職者は3割程度を占めるが、求人広告掲載件数(直近データが確認できる2023年10月分)は前年同月や2019年同月の水準を下回っている。
前述した有効求人倍率が弱めの推移となっていることは、日銀が推計する需給ギャップの基となる労働投入ギャップが弱い状態であることと整合的である。
現実のデータは、産業も労働時間も低迷
2023年の日本経済は、コロナ後のペントアップ(繰り越し)需要が期待された割には、景気回復は限定的である。その結果、鉱工業生産や第3次産業活動指数は低迷している。
労働投入ギャップの基礎データである総労働時間も低迷している。
このような状況では、「本気の求人」が増加して賃金上昇圧力が高まるとは思えない。主観的な「人手不足感」よりも、現実のデータである「ハードデータ」から示される「人手不足」の現実を重視したほうが、経済予測によって有益だと、筆者は考えている。
末廣 徹:大和証券 チーフエコノミスト
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