理研「名大の不正論文」責任著者を採用の波紋 国の研究費配分機関の処分が無効化するおそれ
東洋経済オンライン / 2024年1月18日 7時30分
理化学研究所(理研)――。日本で唯一の自然科学の総合研究所で、国立の研究開発法人でもある。収入の大半は、運営費交付金や補助金といった国から支給されているものだ。
【写真】理研は2024年4月に発足する新しい研究室向けの研究員を公募している。新研究室を主宰するのは不正論文の責任著者だった人物
その理研が1月11日、4月に新しい研究室を発足させるとして、1名の研究員の公募を開始した。研究室の名前は「伊丹分子創造研究室(仮称)」で、研究室を主宰する主任研究員は名古屋大学教授の伊丹健一郎氏。つまり、理研が4月から伊丹氏を主任研究員として迎えることが対外的に明らかになったわけだ。
このことが一部の研究者らの間で波紋を呼んでいる。
不正論文の責任で研究費用の交付が停止中
分子をつなげて価値ある材料を作り出す合成化学の権威である伊丹氏だが、名大で自身が主宰していた研究チームが2019年6月にイギリスの科学誌『ネイチャー』上で発表した炭素素材グラフェンナノリボンに関する論文で、重大な不正が発覚している。
伊丹氏は責任を問われ、国の研究費用の配分を決める科学技術振興機構(JST)や日本学術振興会(JSPS)からはペナルティとして、研究費用の交付を2025年3月末まで止められている最中。にもかかわらず、主に国からの研究費用が資金源の理研が伊丹氏を採用することは、ペナルティを途中で無意味化させかねない。
しかも、理研は伊丹氏にかなりの好待遇を用意している模様だ。理研では主任研究員の場合、採用の初年度には立ち上げ費用と研究費用として、多ければ5000万円ほどの資金を出すという。理研関係者は「これでもかなり高い水準だが、伊丹氏にはそれよりもはるかに大きな額の研究費用を配賦する方針のようだ」と明かす。
そもそも論文の不正を巡っては、2022年3月、名大の調査委員会がデータの改ざんやねつ造を認定した。実際に不正に手を染めたのは伊丹氏が主宰する研究室に所属していた筆頭筆者の元大学院生で、論文の「コレスポンディングオーサー(責任著者)」として名を連ねていた伊丹氏と、名大准教授の伊藤英人氏の2人は、改ざんやねつ造への関与を否定している。
ただ、責任著者は筆頭筆者以上に論文の成果に対する名誉や評価を享受できる一方、研究チームのメンバーに適切な指導や助言を行うほか、論文の内容をしっかりと確認して責任を持つことが求められる。元大学院生によるデータの改ざんやねつ造は、責任著者に求められるチェックを伊丹氏らがしていれば、防げたものだったと見られている。
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