理研「名大の不正論文」責任著者を採用の波紋 国の研究費配分機関の処分が無効化するおそれ
東洋経済オンライン / 2024年1月18日 7時30分
調査委の報告書では、伊丹氏らの責任について、「日ごろからの研究指導において再現実験の実施や、普段から処理前の生データと実験ノートに向き合って実験結果等を慎重に検討していれば、早期に本件の研究不正に気づけた可能性は高い」と指摘。そのうえで、伊丹氏らについて「懲戒処分の調査・審議をする」としていた。
名大は処分の有無をうやむやに
しかし、名大は、元大学院生については修士と博士の学位を取り消して発表したのに対し、伊丹氏らについては結局、何も処分を発表することはなかった。名大に問い合わせると、「処分をしたかどうかも含めてお答えできない」(広報担当者)という。
伊丹氏の研究室が2022年4月以降も続いているところをみると、出勤停止などの大きな処分はなかったことがうかがえる。ある研究者は「ひっそりと口頭注意程度で済ませたのだろうが、だとすれば軽すぎる」と疑問を口にする。
とはいえ、伊丹氏がこれまで通りに研究を続けられているわけではない。上述の通り、伊丹氏は研究者にとって資金の大本であるJSTやJSPSからの研究費用の交付を止められているからだ。そうした中で、理研から多額の研究費用を受けられるオファーは願ってもない話だったのだろう。
では、理研はなぜ伊丹氏を採用するのか。
国立大学であれば教授会があり、一般的に人事などの重要事項はそこで審議する。不正論文に関わり、JSTやJSPSからペナルティを受けている最中の研究者の採用を諮れば、多数の反対が出る可能性が高い。そのため、少なくとも今のタイミングで伊丹氏を研究室の主宰者として受け入れることは国立大学では難しいだろう。
他方、理研にも一応、研究センターごとにセンター長・本部長や主任会の議長、副議長、複数の主任研究員らで構成する人事委員会というものが存在する。ただ、理研関係者は「委員会のメンバーの一人一人の権限は、教授会と違って同等ではない。センター内の権力者の意見で人事が決められることが多々ある」と話す。
結果として、権力者とコネがある研究者や、権力者の言うことを聞きそうな研究者が採用されることが起きやすいという。
STAP細胞事件の反省と矛盾
理研といえば、大騒動になったSTAP細胞事件を真っ先に思い浮かべる人が今でも多いはずだ。若手の女性研究者で論文の筆頭著者だった小保方晴子氏が研究結果をねつ造したと認定されたが、責任著者らの責任も重いとされた。その一人であり、小保方氏を指導する立場にあった副センター長(当時)の笹井芳樹氏が、自殺する事態にまで発展した。
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