「松本ずっと嫌いだった」投稿をそう軽視できぬ訳 空気の変化はずっと、水面下で進行していた
東洋経済オンライン / 2024年1月19日 12時0分
そのスタンスから、なぜ今になって「嫌いだった」との告白が相次いでいるのかを考えてみると、そこには「時代による『空気』の変化」があるように感じる。
思い起こせば、平成期のバラエティー番組は、視聴者との共犯関係を築くことで、人気を集めるものが多かった。それなりのポジションにある芸人が、後輩や女性タレントらを「イジる」構図は、「ごっつ」に限らず、十数年前まで決して珍しくなかった。むしろ、2000年代末期の「おバカタレント」ブームあたりまで、高視聴率をたたき出す、テレビ局としても魅力的なコンテンツだった。
当時を振り返って、古きよき時代と捉えるか、昔でもダメなものはダメと切り捨てるかは、人それぞれだ。また、イジりの対象になった芸能人も、活躍の幅が広がることにより「オイシイ」、いわばWin-Winの関係になっていた側面もあるだろう。
しかし、そうしたコンテンツは、現実として、次第に受け入れられなくなっていった。それとともに、「イジる系」の笑いを好まない人々によりマッチした内容へと、少しずつ変化してきていたのだ。
他方、松本さんやダウンタウンをめぐる「空気」が変化した背景には、メディアの影響も、おそらくある。「KY(空気を読め/空気が読めない)」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされたのは2007年。その翌年のiPhone上陸により、スマートフォンが日本に普及し始める。
エンタメ受信機が「一家に一台」から「ひとり一台」になったうえ、ターゲティング技術が進歩して、それぞれに最適化された「あなたへのオススメ」が表示されるようになると、「みんなが見ている番組」は減り、その興味も細分化されていった。
テレビ局が推す「万人向けのオモシロ」ではなく、アルゴリズムが推す「あなた宛てのオモシロ」に触れていくにつれて、かつて触れたコンテンツに「そういえば、面白かったのかな?」と懐疑的な見方を示しても不思議ではない。
旧ジャニーズ事務所をめぐっても、似たような側面がある。ジャニー喜多川氏の性加害問題が話題になったことで、「そういえば……」と、これまで気にしなかった違和感が浮かび、それをSNSで共有したくなる。
つまり「カリスマの失脚」に乗じて嫌悪感を示し始めたわけではなく、時代の変遷による変化や、テレビへの接し方の変化などが重なったうえで、長年のモヤモヤにひとつの答えが出たのが、今だったというだけなのではないか。
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