「松本ずっと嫌いだった」投稿をそう軽視できぬ訳 空気の変化はずっと、水面下で進行していた
東洋経済オンライン / 2024年1月19日 12時0分
昭和が終わり、平成も終わり、テレビの地位が相対的に低下した。そのうえで、視聴方法も変化し、個人に最適化されるようになり、令和になって数年が経過した。大衆が変化するのにも、十分な時間があった……そう考えても、おかしくはないだろう。
ファンによる「嫌なら見るな」も考えものな理由
今回の件に限らず、SNS上では「嫌いだった」といった反対側に、しばしば「嫌なら見るな」といった主張が見られる。
だが、この主張自体が考えものなのかもしれない。というのも、ナインティナインの岡村隆史さんが、テレビ番組について同様の趣旨の発言をし、大きなバッシングを受けているからだ。
当該の発言がなされたのは、2011年夏のこと。振り返ると、ちょうどその頃は、まさに空気が変わる節目だった。東日本大震災を経て、SNSの存在感が増すなかで、岡村さんの発言は「テレビ業界の傲慢さ」と受け取られ、民放各局が低迷していく転換点となった。
ただ、そうした経緯も踏まえつつ、「嫌なら見るな」の根源を考えてみると、「自分が好きなコンテンツを守りたい」という純粋な思いが見えてくる。たとえ他人から、ただのノスタルジーだなどと言われても、コンテンツと過ごした時間は実際にあり、それを否定されることは、居場所を奪われるのと同じだ……と感じるのではないか。
幼き日のノスタルジーを否定されたくない。育ってきた環境を否定されたくない。そんな心情が、異なる意見の排除につながる。防衛本能に身をまかせて、反射的に「見るな」と投稿してしまう人も相当数いるはずだ。
時代は否応なしに変化していくもの
多様性やら、ダイバーシティやら、声高に言われている昨今だが、ことコンテンツに対する価値観は、こだわりがぶつかりやすい。「嫌いだ」「嫌なら見るな」と正面から対立するのではなく、互いに尊重し合える術はないものか。
皮肉にも、先にあげた、アルゴリズムによる「あなた宛のオモシロ」の普及は、ひとつの着地点になり得るだろう。自動的に「嫌」が排除されれば、思わず出くわしてしまう機会も減る。これからAI(人工知能)の技術が、さらに発展すれば、好き嫌いを判断するコンシェルジュ役としても、有能になってくるだろう。
とはいえ、好きなものばかりに触れるのは、それはそれで問題だ。また、いざ向き合ってみないと、好き嫌いの判断もできない。「マズい、もう一杯!」という青汁のCMではないが、苦手だとわかっていても、あえて血肉になるからと接することもあるはずだ。
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