「ゴミ屋敷のくぼみに寝る」母親が救われた瞬間 息子の依頼で家が片付けられ新生活が始まる
東洋経済オンライン / 2024年1月20日 12時0分
「異変に気付いてから家を訪問するまでに3年かかりましたが、そこからは早かったです。息子さんも一般企業に就職されたことで実家に帰る機会も増えます。そこで快適に過ごしてもらうためにはまず家をきれいにしなくてはいけませんでした。15年培ってきたゴミの中にも思い出はあると思います。そういうことも踏まえて、一緒に片付けてもらえたらと思っていました」
職員からの依頼を受け、見積もりに向かったのはイーブイの社長・二見文直さんの弟である信定さんだった。信定さんは兄と一緒にイーブイを営んでいる。
「私もここまで状態の悪い部屋を見たのは久しぶりだったので、職員の方はかなりショックを受けたはずです。何百匹というゴキブリが部屋中を這っていたので、一晩でもここで寝れば何か所も噛まれてしまうでしょう。でも、一人で住んでいるお母さまに悩んでいる様子はなかったです。自分ではどうしようもないこともわかっているし、なかば諦めているような状態でした」(信定さん)
母親は15年という長い月日によって、「悩む」という段階を通り越してしまったのだろう。
母親は和室のゴミ山にできたわずかな「くぼみ」で生活をしていた。数年前にクーラーが壊れてしまい、夏は扇風機だけで暑さを凌いでいた。制汗スプレーを体にかけて眠るが、暑さで2~3時間おきに目を覚ましていたという。冬もかなり寒かったはずだ。その「くぼみ」の前で母親が話す。
「旦那がいるときは掃除もしていたんですけど、亡くなってからしなくなったんですよね。もともと片付けが苦手だったので、もう止まってしまったんです」
夫の死のほかに、部屋を片付けられなくなった理由がもうひとつある。母親は4年前に脚を怪我してしまった。以来、脚を引きずるようにしないと歩けなくなってしまったのだ。ひとつのゴミ袋を家の外に出すことすら身体的にも精神的にも大きな負担となり、部屋がゴミだらけになった。すぐに自分ではどうすることもできないラインまで、ゴミが積み重なっていった。
「怪我や体を悪くしたことでゴミ屋敷になってしまう人は多い」と信定さんは言う。
「日常的に極力体を動かさないようなると、途端にゴミや荷物は溜まっていきます。それがある一線を超えてしまうと、もうどうしようもありません。本当にひとつの小さなきっかけで、ゴミ屋敷になってしまうんです。今まで普通にできていたことができないというもどかしさは、精神的に辛いでしょう」
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