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JT苦節5年「王者アイコス」へ繰り出す下克上戦略 加熱式たばこの最新モデルを28市場へ怒濤展開

東洋経済オンライン / 2024年1月21日 7時30分

設計ではメカの印象でなく自然になじみ、所有欲を満たすデバイスを目指したという(記者撮影)

たばこ大手のJTが、社運を懸けた勝負に出る。欧州各国で加熱式たばこの市場が急速に広がる中、「PloomX(プルームエックス)」のグローバル展開を推し進めている。2023年から積極的な市場開拓をスタートさせた。

【JTのイタリア旗艦店】DJブースを設け、クラブのようなおしゃれな雰囲気でアピール

先行するのはアメリカのフィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)の「IQOS(アイコス)」。加熱式の世界最大市場である日本で高いシェアを握り、イタリアでは加熱式=アイコスの図式となっている。ユーザー数は2740万人(2023年9月)で、同社では加熱式を含む煙の出ない製品が、売上高の3割超を占める。

JTは紙巻きたばこを収益源とするが、将来的には市場が加熱式などへ置き換わっていく可能性もある。成熟市場の紙巻きは事業の効率化を進めつつ、成長期待の加熱式へ集中投資していく方針を掲げる。2024年末までに計28カ国・地域でプルームXを投入する計画だ。加熱式では後発からの巻き返しとなるが、世界市場で勝つ秘策はあるのか。

欧州では認知度ほぼゼロ

プルームXは2022年に主要市場の1つであるイギリスに投入。2023年は4月のイタリア、リトアニアを皮切りに、5月にポルトガルへと拡大。その後もチェコ、スイスなど着々と広げて計13市場へ投入してきた。

JTが選んだのは、後発の王道とも言える戦略だ。競合が進出して一定程度、加熱式の普及が進んだマーケットを軸に進出を決めている。デバイスとスティックを用いる加熱式の特徴を、いちから消費者に説明する宣伝コストが必要ないからだ。たとえば、たばこ市場における加熱式のシェアはイタリアが16%、リトアニアは27%(2022年平均、JT推計)にのぼる。

現在、各国で徹底して力を入れるのは、プルームブランドの訴求だ。日本と異なり、欧州でのブランド認知はほぼゼロに近い。知名度がなければ、消費者はデバイスを試してもらうどころか、存在にすら気づかない。

イタリア・ミラノでは2023年11月、目抜き通りの一等地に旗艦店がオープンした。現地のメディアやインフルエンサー、小売店の関係者を集めて大々的にパーティを行った。DJがBGMで盛り上げ、飲み物も提供するなど、クラブのようなおしゃれな雰囲気でブランドをアピールしている。

イタリアではほかにも、世界4大コレクションの1つであるミラノ・ファッションウィークでドルチェ&ガッバーナの協賛を得てブースに出展している。世界的なファッション発信地の力を、大いに活用する取り組みだ。

アイコスよりも安い価格設定

プルームXを扱う場所も広げている。旗艦店ほどではないが、たばこ店に協賛して売り場を作る。ショッピングセンターの中に販売所を置いてデバイスを試してもらうなど、消費者との接点を増やしている。

後追いでは価格戦略も欠かせない。どの国でも基本的に競合よりも安い価格で販売している。消費者が実際に製品を試すチャンスは、デバイスの値引きキャンペーンが多い。クリスマスなど季節のイベントに合わせて値引きを繰り出し、手に取りやすいようにしている。

タバコの販売店はもちろん、美容師、カフェのバリスタ、バーテンダーなどにアンバサダーになってもらい、成人の喫煙者に商品を勧めるプログラムもある。接客する中で「においがつきにくい」などと加熱式のよさを広めてもらうわけだ。アンバサダーの選定からは、おしゃれなブランドとして打ち出すJTの狙いが見えてくる。

ユーザー定着に向けて、日本流のサポートである電話の相談窓口も導入した。紙巻きとも、他社製品とも使用方法が異なるため、より丁寧なサポートを打ち出している。

加熱式はデバイスが存在するゆえに知名度を高め、試して、定着してもらう、段階を踏んだマーケティングが必要になる。さらに遵守すべき各国の規制は多く、地域ごとに好まれるフレーバーも違う。マーケの手法も微妙な調整が必要になってくるわけだ。

海外戦略を担当してきた嶋吉耕史副社長は「スティックに紙巻きのブランドを用いるなど、われわれの既存の紙巻きのユーザーを誘導することがメインの戦い方。アイコスに逃げられないよう、しっかり投資していく。各国の担当者から『早くこちらのマーケットに投入してくれないか』という声が多い」と語る。

競合を追い越したのか?

グローバル展開を進める中で、武器もそろってきた。2023年11月に投入した新モデル「プルームXアドバンスド」だ。

最高加熱温度を従来の約295度から約320度に引き上げ、温度と気流をコントロールし、吸いごたえとたばこ葉の味わいを一段と引き出している。デザインもより高級感を意識したものに変わった。日本での価格は赤字覚悟の1980円だ。

プルームXのユーザーが使用をやめてしまう理由として「吸いごたえがない」「味や香りが弱い」といった要素があった。これはプルームXに限らず、紙巻きの「燃焼」と「加熱」の違いによるものだが、JTはこの点を克服できないか試行錯誤を重ねてきた。

2019年の「プルームS」投入後、競合と比べて甘さ、苦さ、後味、ベイパー(蒸気)の量、吸いごたえを指す「キック感」はどうかなど、細かく分析し、調整してきた。製品名を伏せたユーザー調査では、アイコスと比較してアドバンスドは、大幅に上回る支持を得ることができたという。レギュラー(たばこ葉の風味)に加えて、特にメンソールとフルーツフレーバーでは圧倒的な結果だった。

開発に携わってきた商品企画部RRP担当部長の山口顕氏は「完全に競合に勝っている。プルームXまでは追いつくことが目標だったが、アドバンスドはどうリードするかという考え方にフェーズが変わっている」と語る。国内でアドバンスドを発売後、わずか2週間で0.3%市場シェアを伸ばした(JT推計)。

日本市場ではアイコスを、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパン(BAT)の「グロー」とプルームXが追う構図。JTのシェアは10%強で、アドバンスド投入でシェアを伸ばせるかはグローバル戦略でも重要になる。スイスやポーランド、英国に続き、他の市場でも順次アドバンスドへ切り替えていく方針だ。

2035年に大幅刷新の予定

JTが加熱式に本腰を入れ、グローバル展開を決めたのは2019年。今後10年間で、加熱式が最も伸びるカテゴリーと予測しての決断だった。それまでは電子たばこ、嗅ぎたばこなど、複数製品に投資する方針だった。以前のモデルのプルームSでは国内と海外で別モデルを投入するなど「右往左往していた」(嶋吉副社長)と当時を振り返る。

そこから社内のコンセンサスが徐々に固まっていった。開発部隊を統合し、2021年にプルームXを投入。コロナ禍や半導体不足で当初の計画から遅れたが、2023年にグローバル展開にこぎつけた。アドバンスドの投入でさらにアクセルを踏み込む。

デバイスも次世代モデルを準備中で、細かな刷新は1~2年ごと、大幅な変更は2~3年を目安に行っていく。2050年まで開発パイプラインがあり、2035年には大幅な刷新を予定しているという。「今後、ゲームがどんどん変わっていくことを期待している」(山口氏)。現在の加熱式のカテゴリーが、異なるジャンルの製品にシフトすることも想定しているようだ。

当然、ライバルたちもモデル刷新やマーケット拡大を進め、今後も加熱式のグローバル規模の競争は続く。後発のJTは着実に世界シェアを奪取できるのか、2024年は下克上に向けた重要局面と言えそうだ。

田邉 佳介:東洋経済 記者

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