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相続税も圧縮?大正製薬の「MBO」は誰のためか 7100億円を投じる「上原一族」には複数の利点

東洋経済オンライン / 2024年1月22日 7時50分

次世代への経営権の移行をにらんだMBOであることは、そのスキームからもうかがえる。

大正製薬によると、親会社となった大手門株式会社の普通株式を取得できるのは、上原明氏の息子である上原茂氏、治氏、健氏の3人だけ。名誉会長の上原昭二氏など3人以外の親族や、上原一族が代表を務める上原記念生命科学財団と上原美術館には、それぞれ議決権のない優先株式が割り当てられる。

税理士の岸田氏はこのスキームについて、「経営者として一線を退いた昭二氏や明氏に税負担の軽い相続財産を保有させつつ、茂氏、治氏、健氏の3人が支配権を持つ経営体制をつくることが目的では」と推測する。茂氏への贈与が容易となり、結果として茂氏による経営の基盤を固められる、という見立てだ。

会社法上、1%の株式を保有していれば株主総会で議案を提起することができるほか、3%の議決権があれば会社に対して株主総会の開催を要請できる。

TOB前の大正製薬では、上原家に関係する株主だけでも財団や美術館、昭二氏など数が多く、それぞれがまとまった普通株を保有していることにより、経営に対して一定の発言権がある状態だった。TOBを経て茂氏など3人以外が議決権を失うことで、支配権の集中度合いは高まる。

このタイミングでの非上場化という決断の裏には、これまで見てきた大正製薬固有の事情に加えて、上場企業を取り巻く環境の変化の後押しもあっただろう。2023年にはベネッセHDやシダックスなども、オーナー家主導のMBOに踏み切っている。MBOの件数は増加傾向にあり、金額規模では2023年が過去最高となった。

背景には、金融庁が主導するコーポレート・ガバナンスコード(CGコード)の強化と、東京証券取引所による市場改革がある。上場企業にとって、こうした新たな方針に対応するためのコストが上がっているのだ。

例えばCGコードでは、2022年からプライム市場とスタンダード市場の上場企業に対し、取締役個別の能力や資質をまとめたスキルマトリックスの開示を要求している。取締役に選ばれた理由について、投資家などのステークホルダーにわかりやすくすることが目的だ。

親族などの縁故者を役員に起用することが多いオーナー系企業ほど、スキルマトリックスの開示はプレッシャーになる。実際には血縁関係などを理由に選んでいる場合でも、「企業経営」や「グローバル」などの観点で資質があると説明する必要があり、投資家などから「もっと適切な人選が可能では」と指摘を受ける可能性も出てくる。

オーナー企業の市場退出は狙い通り?

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