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相続税も圧縮?大正製薬の「MBO」は誰のためか 7100億円を投じる「上原一族」には複数の利点

東洋経済オンライン / 2024年1月22日 7時50分

東証の市場改革で新たに設けられた指標の「流通株式比率」と「流通株式時価総額」も、オーナー経営者にとってはわずらわしい。プライム市場は上場維持基準として、流通株式比率の下限で35%、流通株式比率と時価総額をかけて計算する流通株式時価総額で100億円を定めており、下回ると一定の猶予期間を経て上場廃止になる。

こうした基準を満たすためには、投資家との積極的な対話や、保有株式の放出が必要になる。いずれも証券会社やコンサルティング会社に依頼すれば費用がかかる。プライム企業には重要情報の英文開示の義務化も検討されるなど、上場維持コストはどんどん膨らんでいる状況だ。ちなみに大正製薬は、プライム市場の上場基準を満たしながら、スダンダード市場を選択している。

そもそもCGコード改訂や東証の市場再編が行われた根底には、オーナー系企業や成長性の乏しい企業が上場を続けており、市場全体の新陳代謝が進んでいないという問題意識があった。上場維持のメリットとコストをてんびんにかけ、コストが上回ったから退出するという企業の判断そのものは、金融庁や市場関係者の狙い通りとも言える。

しかし上場廃止のプロセスが、少数株主を含めたステークホルダー全体にとって“損”のないものとなっているかは注視が必要だ。

大正製薬のMBOにおけるTOB価格は、発表直前の株価に約5割のプレミアムを付けた8620円だった。これを同社の1株当たり純資産(2023年9月末時点で1万0132円)で割ったPBR(株価純資産倍率)は0.85倍。つまり、会社を解散させて資産を分配したほうが株主の利益になるともいえる。

この点について、マネックスグループ傘下の投資助言会社は2023年12月に「少数株主軽視」との意見を表明している。

特別委員会は役割を果たしたか

今回のTOB価格を承認した「特別委員会」が、一般株主の利益を図るという役割を十分に果たしたかどうかも疑問が残る。

今回のケースでは、特別委員会は大正製薬側が雇った大和証券の算定などに基づいて設定された買い付け価格を追認している。この点について、コーポレートガバナンスに詳しい青山学院大学の八田進二・名誉教授は「特別委員会が独自に、独立性のあるファイナンシャル・アドバイザーを選ぶべき」と指摘する。

また、特別委員会のメンバー3人のうち、2人は大正製薬HDの社外監査役で、残る1人も元監査役だった。八田教授は「議決権はないものの、監査役は日頃から取締役会に参加して経営判断を承認し、そうした判断を追認しているにすぎない。利益相反が疑われ、独立性に問題がある可能性のある人物の選任は避けるべきであり、別枠で支払われる報酬についてはすべて開示すべき。メンバー構成に点数をつけるならば及第点以下だ」と話す。

上原家にとってのメリットが多々透ける、今回のMBO。しかしすべてのステークホルダーにとって公正な手続きが踏まれたかどうかについては、検証の余地を残している。

兵頭 輝夏:東洋経済 記者

梅垣 勇人:東洋経済 記者

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