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今の戦争が終わっても、元通りにはならない理由 ケインズ著『新訳 平和の経済的帰結』(書評)

東洋経済オンライン / 2024年1月24日 10時0分

「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」という言葉の通り、現代の政治経済的環境は、ケインズが『平和の経済的帰結』を書いた当時とよく似ているのだ。それだけでも、今、本書を読み返す理由としては十分である。

国際政治経済の問題は1つの娯楽でしかなかった

だが、100年前と似ているのは、政治経済的環境だけではない。その環境の変化に気づかない鈍さや見通しの甘さについても、当時と同じ韻を踏んでいるようだ。ケインズは、『平和の経済的帰結』の中で、次のように書いている。

だが何よりも重要な点として、人々はこの状態が普通で、確実で、永続的か、変わるにしてもさらに改善されるしかありえないと思っており、そこから少しでも逸脱があれば、それは異常なことであり、とんでもない話であり、回避できたはずだと思っていたのだ。


軍国主義や帝国主義、人種や文化の競合、独占、規制、排除の構想と政策は、この楽園における蛇の役割を果たすはずだった。だがそうしたものは、日々の新聞に載る娯楽の種でしかなく、社会経済の通常の方向性にはほとんど影響を与えないように思えた。社会経済の国際化は、実際問題としてはほぼ完成したと思われていたのだ。(pp.12-13)

『平和の経済的帰結』は、ドイツに対する過酷な戦争賠償が同国のハイパーインフレーションや過激な社会主義やナショナリズムの台頭、ひいてはヨーロッパ全体の破滅をもたらすと的確に予言したとして、高く評価されることがある。

そういった視点も重要であるが、筆者が興味を引かれたのは、ケインズが、第一次世界大戦以前の第一次グローバリゼーションの中に、すでに破滅をもたらす構造的な矛盾があったことを指摘していたことである。したがって、第一次グローバリゼーションは世界大戦という偶発的な事件によって終焉したというよりは、遅かれ早かれ、その構造的な矛盾によって、自滅的に終焉していたのである。

むしろ、世界大戦が第一次グローバリゼーションの構造的矛盾の結果だったという可能性すらあろう。しかし、上記の引用にあるように、当時の人びとは、第一次グローバリゼーションの矛盾に気づかず、その兆候が現れても、それを構造的なものではなく、一時的な事象としてしかとらえていなかったのである。

今までの生活は決してあたりまえではない

同じことは、現代でも言える。

例えば、2017年、アメリカにドナルド・トランプ大統領が登場し、保護主義や対中強硬策など、脱グローバリゼーションへと走った。当時、多くの人びとは、脱グローバリゼーションは、トランプという異形の大統領が引き起こした異常事態にすぎないのであり、トランプが去れば、アメリカは、元のグローバリゼーション路線へと回帰するものと期待していた。

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