「中国が最も恐れる男」が見据える対中関係の急所 「異能外交官」垂秀夫・前中国大使がズバリ提言
東洋経済オンライン / 2024年1月24日 7時50分
ーーその流れは日中戦争で一度は断ち切られたわけですが、やがて復活したのでしょうか。
文化大革命が終わり、1978年に鄧小平による改革開放が始まってからが2回目の日本ブームだ。当時の中国では、経済の現代化を進めるためにアメリカ、ドイツ、日本がモデルとして検討された。そして鄧小平が訪日し、新日本製鉄、松下電器産業(いずれも当時)の視察や新幹線への搭乗を経験したことが日本をモデルにする決め手になった。
このときは日本政府も積極的だったし、民間企業もそれに呼応した。協力したのは製造業だけではなく、銀行や証券会社なども積極的に研修生を受け入れた。大来佐武郎、宮崎勇など閣僚レベルのアドバイザーもいた。
1980年代に入ると、日本語学習名目で「就学生」が大量に来た。就学生には上海出身者が多く、帰国してビジネスで成功した人も少なくない。上海に日本にフレンドリーな気風があるのは、そのとき形成された人的基盤があるからだ。
習近平政権のもとでの生活に見切り
ーーそして3回目が現在ということですね。なぜなのでしょう。
いまや中国は共産党による「一党支配」から習近平国家主席による「個人支配」の国家になってしまった。国の将来を悲観して、多くの中国人が海外に渡っている。これまでなら国内で頑張ったはずの人も、子どもにまで習近平思想を教え込むような中国の現状には見切りを付け始めた。
行き先としてはアメリカ、カナダ、オーストラリア、シンガポールなどが候補になってきたが、いまは日本が一番ホットになっている。
それが大きくは東京や京都などでの中国人による不動産取引の活発化に、身近なところでは「ガチ中華」(現地そのままの中国料理)を提供する店の増加などに表れている。
以前と違うのは日本での対中感情が非常に悪いこと。そして日本に来る人の中に富裕層が多く含まれていることだ。
ーー習近平政権の統制を嫌ってということですが、日本はどうみられているのでしょう。
市民としての権利を求める公民権運動(維権運動)に取り組む中国人の眼中に、最近まで日本はまったくなかった。1989年の天安門事件の際に、日本はまっさきに制裁を解除した。そのことが共産党に塩を送ったという印象があるので、体制に距離を置く知識人は日本に関心を失っていた。
私は2002年に胡錦濤政権が成立したころから、中国の先行きを考えるうえで「民主主義」と「法の支配」が決定的に重要になると思っていた。そこで私は継続的に知識人を日本に招いて、現実の日本社会を見てもらうようにした。
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