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顔が溶ける病「水がん」患う少女に笑顔が戻った訳 17億人が苦しむ「顧みられない熱帯病」の正体

東洋経済オンライン / 2024年1月25日 11時30分

なぜならそれは抗毒素の値段が高いため、抗毒素を必要とする低・中所得国は高価な薬を買うことができないからだ。売り上げが伸びない製薬会社が、生産量を減らしたり製造を中止したりした結果、必要とされる地域に届かない事態となっている。

製薬会社で作られる質の高い抗毒素が手に入らない人々は、伝統的な治療に頼ったり、質の悪い抗毒素を使ったりして、さらなる健康被害を引き起こす悪循環に陥っている。

MSFは、アフリカのサハラ以南や中東の国々で、多くヘビ咬傷を治療している。

寝ているときに腕を毒ヘビにかまれた10歳の少女は、2つに切ったカエルを患部にあてたり、生卵と植物の種や葉を飲んで毒を外に吐き出したりするなど、伝統的な処置を受けたが効果がなく、叔父が背負って一晩歩き続け、MSFの病院にやってきた。

受診時には意識がなく、治療の遅れから命が危ぶまれる深刻な状態に陥ったが、3回分の抗毒素を投与したところ、5日後に目を覚ました。かまれた腕の筋肉はひどく損傷していたが、19回にもわたる手術を行い、腕を切断せずに回復できた。

このような幸運もあるが、多くの人はヘビにかまれた後、適切な処置が受けられず、命を落としている。

十数年後に突然死をもたらす「シャーガス病」

シャーガス病は別名「沈黙の病」と呼ばれる。

クルーズトリパノソーマという寄生原虫が病原体で、サシガメという昆虫により媒介される。ほとんどの人が感染に気づかず、約30%の患者に心臓や食道、結腸などに損傷が表れ、5年~20年以内に突然死を引き起こす。

主に中南米で蔓延し、約700万人の患者がいると推測されるが、「人道援助コングレス東京2023」における吉岡浩太准教授(長崎大学)によると、日本にも約2000~4500人の患者がいると推計されている。

早い段階で治療すれば完治するが、比較的高度な血液検査のできる施設でなければ診断が難しい。輸血による血液感染や、母子感染も確認されており、世界で治療を受けているのは1%未満だ。

MSFはメキシコのシャーガス病が蔓延する地域で、プライマリーヘルスケア施設でシャーガス病の診断・治療を現地の保健当局とともに実施した。現地の医療機関の医療スタッフへの技術支援や、診断薬や心電図検査機器の寄付、地域コミュニティにおける啓発活動なども行った。

現在では、顧みられない病気の新薬開発を行う研究開発組織「DNDi」 が中心となり、日本の製薬会社も関わって、新しい診断薬や治療薬の開発に力を入れている。

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