1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

南仏のマクドナルドを「不法占拠」した彼の"望み" 貧困・治安悪化の街の騒動がフランスで話題に

東洋経済オンライン / 2024年1月27日 11時30分

店では近隣住民を積極的に採用している。周辺エリアの失業率は60%。働き先が見つかりにくいシングルマザーなどを中心に、地元の人たちに就労のチャンスを与えている。

それだけではない。毎週月曜日には700世帯分の食品を地元住民に配給している。一般的にファストフードといえば、「安い・早い・美味い」が売りだろう。しかし、この地域ではそれすら買えない人が大勢いるのだ。

「彼らは社会的に非常に不安定な状況にあり、(非常に不安定な状況や、深刻な生活苦に直面していることによる)深い悲しみの中にいます。そんな彼らに対して『助ける側』と『助けられる側』という上下関係のようなものを決して作ってはいけません」(カメルさん)

「Mのその後」の「M」の由来

そもそも、「Mのその後」の「M」とはなんだろう。

実は、かつてこの場所には世界最大のファストフードチェーン「マクドナルド」のサン・バルテレミ店があった。店のすぐ隣で麻薬の取引が恒常的に行われるような立地だが、地域で唯一安定した雇用を促し、住民の憩う数少ない場所としても機能していた。

ところが、経営は年々悪化の一途をたどる。その背景には、言わずもがなこの土地の特殊性があることは明らかだ。

2019年にはついに撤退を決められた。そのとき立ち上がったのが、マクドナルド・サン・バルテレミ店の従業員組合の代表だったカメルさんとその仲間たちだ。

彼らは「自分たちの雇用」を守ろうとしたのではない。ここを拠点にして、地域の住民たちに食料を配給するためだ。折しも時代はコロナ禍に突入。人々は感染だけでなく、飢餓の恐怖とも戦っていた。

そしてカメルさんらは最終手段に出た。なんと閉店したマクドナルドの店舗を不法占拠。違法と知りながら、決死の覚悟で自分たちの活動拠点を保持した。

元マクドナルド、起死回生プロジェクト

「Mのその後」という、不思議な店のネーミングの由来はここにある。「マクドナルドのその後」というわけだ。 

この不法占拠と住民への支援は地元メディアに取り上げられ、大きな反響を呼ぶ。徐々に地域のNPOなどの賛同を得て、同じ場所でファストフード店を再開するというプロジェクトが動き出した。

2020年にはマルセイユ市がこの店舗を買い取り、カメルさんらに貸し出すことに。こうして「〈地域住民のため〉ではなく〈地域住民とともに〉存在する店」ができあがった。

「お客様は神様」という概念はこの店には存在しない。経営者、従業員、ボランティア、客、そして貧困により客にはなれない地域住民も含めて、すべての人たちが平等だ。すべての人たちが団結し、助け合う世界がこの店の目標なのだ。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください