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脳梗塞の老人を大移動させたツアーナースの苦悩 後遺症で言葉が話せない84歳男性の長距離移動

東洋経済オンライン / 2024年1月28日 12時20分

床に対してほぼ並行だった車いすのリクライニングを少しだけ戻し、髙橋看護師が話しかけると、中島さんは不思議そうな顔で頷いた。

新幹線の多目的室は車いすと、人がもうひとり入ればそれだけでいっぱいだ。車いすを少しだけ後ろに引き、前の椅子に髙橋看護師は座った。中島さんのズボンの裾をたくし上げ、靴下をくるぶしまで下げて、アロマオイルを薄く伸ばした手のひらで包むようにマッサージする。

中島さんは目を閉じて、その感覚を味わった。窓の外には富士山の雄姿が広がっていた。

看護師歴35年以上の髙橋は、大学病院を皮切りに、町のクリニックや介護施設、訪問看護師など、様々なフィールドを経験してきた。ツアーナースもそのひとつだ。そんな髙橋看護師は、2022年、新たな挑戦としてケアビューティストの道を選んだ。現在、専門の学校に通いながら、腕を磨いている。

「介護美容」という言葉がある。人はいくつになっても、きれいでありたいと願うものだ。気持ちが沈みがちな高齢者でも、メイクやネイルアートを施すことで、気持ちが明るくなり、毎日の生活に張りが出る。

認知症、生活習慣病などの病を持つ高齢者でも同じだ。いや、医療や介護の世話になっている高齢者だからこそ、美容という新たな光を当てることで、その人の人生が再び輝き始める。ケアビューティストは、そうしたアプローチに特化した技術を持つ。

髙橋看護師は次のように説明する。

「介護美容はシニア世代を中心に、認知症や身体に障害がある方を対象に美容を通して新たな生きがいや心の安寧を提供する専門技術です。メイクやネイルだけではありません。アロマセラピー、フェイシャルエステ、手足のマッサージ、足爪の角質ケアなどのフットケアも行います。

ただ美しくなっていただくだけでなく、施術の際には相手の肌に触れることで、その方の体や心の状態を把握し、個人個人に寄り添ったコミュニケーションを大切にしています。こうしたケアを通して、心のやすらぎや、身体機能の向上へもつなげることができると考えています」

医療依存度の高いツアー患者

50年以上、東京都葛飾区に住んでいた中島さんは、2023年の8月に肺炎を起こし、救急車で病院に入院した。それまでは健康状態に大きな問題はなく、1人で暮らしていた。しかし、その後の検査で脳梗塞が見つかり、2カ月ほどの入院で、症状は安定したが、重篤な後遺症が残った。

嚥下機能が著しく低下し、口から飲食物を摂取することができなくなった。生きるための栄養摂取は、静脈に直接高カロリーの栄養剤を点滴投与する“中心静脈栄養”によって行われていた。

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