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「経済成長か貧しい暮らしか」という二項対立の罠 日本が「脱成長」のロールモデルになれる理由

東洋経済オンライン / 2024年1月31日 10時0分

エッセンシャル分野への再分配などにより、「ラディカルな改良主義」を推し進めれば、市場が縮小している日本は、世界でいちばん先行した脱成長のロールモデルになる可能性があります(写真:maruco/PIXTA)

環境破壊、不平等、貧困……今、世界中で多くの人々が、資本主義が抱える問題に気づき始めている。経済人類学者のジェイソン・ヒッケル氏によれば、資本主義は自然や身体をモノと見なして「外部化」し、搾取することで成立している、「ニーズを満たさないことを目的としたシステム」であるという。そしてヒッケル氏は、「アニミズム対二元論」というユニークな視点で、資本主義の歴史とそれが内包する問題を白日の下にさらし、今後、私たちが目指すべき「成長に依存しない世界」を提示する。今回、日本語版が昨年4月に刊行された『資本主義の次に来る世界』について、東京大学大学院准教授で、『人新世の「資本論」』の著者の斎藤幸平氏に話を聞いた。前編に引き続いてお届けする。

GDP神話と人々の幸福

私たちの経済成長を計るGDPは、商品にどれくらいの付加価値がつき、市場でやり取りされたかを表す指標です。

【写真を見る】成長を必要としない次なる社会を描く『資本主義の次に来る世界』

しかし、戦争でミサイルを打って街を壊してもGDPは増えますし、人に必要ないものを買わせても増えます。公共サービスとして無償で提供されていた教育や医療を値上げしても、増えるのです。

アメリカは、GDP世界一ですが、日本や韓国よりも平均寿命が短く、ひどい格差があります。アメリカのGDPの多くは「無駄に」なっているとヒッケル氏は指摘します。実際、私たちの生活や幸福にとって重要なものは、健康寿命が長いこと、近くに公園や緑があることなど、決して貨幣で計られる一面的なものではありません。

人々の生活や幸福にとって役に立つものだからこそ、人間は、便利なものを作ろうとし、技術を発展させてきました。

技術は、本来の「使用価値」を持っているのです。これを使えば遠くの人とコミュニケーションができる、これを使えば洋服がもっと綺麗になるなど、使用価値が人々を幸せにし、そこに経済活動が生まれるから、GDPも増えていく。

しかし、いつからか、価値が増えてお金も増えていくのに、必ずしもその使用価値が増えないものが、たくさん出てきました。

無駄な再開発もそうですし、最近ではiPhoneも、12になろうが13になろうが、新しい機能はあるものの、iPhoneの持つ使用価値そのものは大して変わっていない。つまり、私たちは新しいiPhoneを買っても、GDPを増やすことはできても、幸せにならないのです。

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