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「M-1」より成功した新規事業を、私は知らない 経営学者・入山章栄氏、M-1誕生秘話を読む

東洋経済オンライン / 2024年2月1日 12時30分

これは洋の東西を問わない。たとえば、アメリカでは毎年3月に「マーチ・マッドネス」というバスケットボールの大学ナンバーワンを決める大会が開かれる。64チームが勝ち抜き戦を繰り広げ、まさに全米が熱狂する。

その背景として、情熱や夢を追いかける姿に心打たれるだけでなく、若い人特有の揺らぎや不安定さがあるからだと思う。試合を通じて驚くほど成長するチームもあれば、有力視されていたチームがあっさりと敗退することもある。こうした危うさから来るハラハラドキドキは、安定的に実力を発揮するベテランが競い合うスポーツではあまり起こらないことだ。

M-1の場合、若手のパフォーマンスは安定しないときもある一方で、新しさやオリジナリティーを持ち込んで、芸歴の長い人に一発逆転で勝ったりする。2023年のM-1で優勝した令和ロマンなどがそうだ。

M-1は勝敗において忖度が一切ないところもいい。所属事務所は関係なく、吉本の芸人が優勝するとは限らない。純粋にその日のパフォーマンスだけで評価される。そういうシンプルで、きわめて透明性の高い競争の仕組みをつくったところは、著者の功績だ。予定調和ではなく、結果がどう転ぶかわからないから、聴衆は魅了される。

シリコンバレーのスタートアップとの共通点

甲子園の高校野球もマーチ・マッドネスも、ほとんどのチームは1回戦で去って行く。M-1で優勝するのは1組だが、漫才師の予備軍は何万人もいて、そのほとんどが漫才では食べていけない。そういうシビアな世界がそこにはある。

これはシリコンバレーのスタートアップにも共通する点だ。成功するスタートアップの背後には、失敗した企業が何万と存在する。その一方で、シリコンバレーには、シビアだが透明性の高い仕組みがある。そうした環境の中で、若者たちがひたむきに、揺らぎも見せながら、真剣勝負をして、本質を突いた人が成功する。だから、イノベーションが次々と創出されるのだ。

ところで、新規事業が成功すると、自分の手柄にする人が山ほど出てくる。実はこの私でさえ、「俺が入山を育てた」とおっしゃる方が出てくる。決まって、数回お会いしただけだったりするのだが。M-1ほど成功すれば、「これは俺が作ったものだ」と言い出す人が現れるのは無理もないことかもしれない。そういうエピソードも入っていて、新規事業のリアルを捉えているなと感じる。

それもあって個人的に素晴らしいと思ったのが、本の最後に、島田紳助さんの寄稿が載っていたことだ。

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