1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

壮絶ないじめも耐えた「光源氏の母」の一途な愛 夫と息子に愛された桐壺更衣が詠んだ歌

東洋経済オンライン / 2024年2月11日 17時0分

御つぼねはきりつぼなり。あまたの御かたがたを過ぎさせ給ひて、ひまなき御まへ渡りに、人の御こゝろを尽くし給ふも、げにことわりと見えたり。まうのぼり給ふにも、あまりうちしきる折々は、打ち橋渡殿のこゝかしこの道に、あやしきわざをしつゝ、御送り迎への人のきぬの裾たへがたく、まさなき事もあり。又ある時には、えさらぬ馬道の戸をさしこめ、こなたかなた心をあはせて、はしたなめわづらはせ給ふ時も多かり。

【イザベラ流圧倒的意訳】
更衣が住んでいるお局は桐壺と呼ばれる場所。ミカドがそこに訪問するときは、多くの女性の部屋を素通りすることになるけれど、無視された人はカンカンに怒るわけである。当然だが! 桐壺更衣が何度もミカドのお部屋に呼ばれるのも我慢ならない。あまりにも回数が多いので、リベンジを企む人が続出した。打橋や廊下の通り道のあっちこっちにけしからぬ仕掛けをしたりして、送り迎えの女房たちの着物の裾が無残な姿に。またあるときは、どうしてもそこを通らないといけない廊下の戸を、両側で示し合わせて外からカギをかけ、更衣を閉じ込めてしまったこともある。

ヒェー! 怖い! 雅な世界は実に闇が深い。

当時のミカドの主たる責務は、政権内の秩序を保ち、子孫を絶やさないことだった。後宮で訪問を待ち構えている多くの妃や女房を無視して、1人の女性に夢中になった桐壺帝はそのどちらの義務もほったらかしにしてしまう。

パートナーが1人だと、懐妊する可能性もグッと下がるばかりか、それをとやかく批判するでしゃばりな政治家も出てくる。しかも、ミカドの子どもを授かるというドリームを抱いて、大切に育てられた姫たちは、「なんでアイツなの? なんで私じゃないの? ズルイっ!」と嫉妬がとまらないわけだ。この時代は、すぐみんな生き霊を飛ばしたりするから、まさに危機的状況。

日本一の男に愛されているにもかかわらず、孤立無援となる桐壺更衣。プレッシャーに押しつぶされた彼女は病気で退出して、瞬く間に短い生涯を閉じる。最愛の人を亡くしたミカドは泣き崩れ、なおも他の女には目もくれない。壮大な物語はこうした小さな、切ない恋から始まっている。

桐壺更衣が辿る悲運があまりにリアル

改めて言うまでもないが、『源氏物語』はれっきとした作り話だ。ストーリーは作者の紫式部が生きた時代より、100年ほど前の「いづれの御時」に設定され、執筆当時では「更衣」、つまり衣替えに奉仕する女官の役職は、すでになくなっていたらしい。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください