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壮絶ないじめも耐えた「光源氏の母」の一途な愛 夫と息子に愛された桐壺更衣が詠んだ歌

東洋経済オンライン / 2024年2月11日 17時0分

ところで、完全に想像上の話なのに、桐壺更衣が辿る悲運はとてもリアルに描かれている。それもそのはず。似たようなことが、紫式部が生きていた時代に本当にあったからだ。

藤原道隆(道長の兄)の娘として生まれた藤原定子は、女御から中宮になって、しっかりと一条天皇の愛を勝ち取る。仲良しの2人の間に子どももできて、めでたしめでたし。しかし、その後からが本番。

父親が病気で亡くなって、兄の藤原伊周が女性関連の争いで花山法皇に矢を放って流罪。弟の隆家も、その事件に加担していたということで、同じ罰を食らう。定子様は幸せの絶頂から理不尽な不幸のどん底に突き落とされ、身重ながらに髪を切って出家を決心する。

子供の誕生を何よりも心待ちにしていた一条天皇は、それでも諦めず、大好きな定子様を宮中に連れ戻した。愛執にもほどがある! と周りが騒ぎ出して、それこそ『源氏物語』より何倍もドラマチック。

野心家の藤原道長はそこにチャンスがあると思った。神経衰弱ギリギリの定子様のポストを狙って、娘の彰子を入内させ、やがて史上初めての「一帝二后」の実現に努める。

定子はその少しあとに第二皇女を出産してから崩御するが、一条天皇との情熱的な恋も、苦悩に満ちた儚い一生も同時代の人々の記憶に深く刻まれたことだろう。

同世代の女性が読んで「ピンときた」こと

複雑な事情があったにせよ、還俗した定子に対して、世俗の人の目は厳しかった。1人の女に固執する一条天皇の責任も大きいが、それに従った定子に悪評がつきまとう。そう、桐壺更衣と同じように……。

『源氏物語』には、桐壺更衣の描写も、桐壺帝との馴れ初めに関する記述がないのは、そのせいかもしれない。ミカドの寵愛を受けながらも独りぼっちになって、世間の冷たい目線に晒されているかわいそうな女性……それ以上の説明はもういらないのだ。同時代の読者がすぐにピンときて、薄命のプリンセス・定子様の美しいお姿を思い浮かべつつ、『源氏物語』を耽読していたに違いない。

問題はたった1つ。

紫式部は彰子に使えた女房だったということ。行き過ぎた愛はいけないよ〜という忠告が文中にやんわり含まれているものの、桐壺帝と桐壺更衣の恋は美しくて切ない。一条天皇も彰子も、下手すると道長も『源氏物語』を読んでいるのに、定子様と思しき人物を、ミカドの最愛の女性として登場させていいのかい? 

『源氏物語』が書かれた順番は正確にはわからないので、「桐壺」の帖がリリースされたタイミングは不明だが、紫式部はそれを書いたときに、一か八かの大勝負に出た。主家が反対する可能性があろうとも、誰もがもっとも読みたかった、永遠かつ唯一無二の愛の物語を綴ることにしたのだ。

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