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極限を生き抜いた男の人生とトヨタへの愛憎 『トヨタ 中国の怪物』児玉博氏に聞く

東洋経済オンライン / 2024年2月12日 7時30分

児玉博(こだま・ひろし)/ノンフィクション作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業後、フリーランスとして取材、執筆を行う。2016年、第47回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。主な著書に『堤清二 罪と業 最後の「告白」』『テヘランからきた男 西田厚聰と東芝壊滅』『堕ちたバンカー 國重惇史の告白』など(撮影:梅谷秀司)

中国生まれ、2歳で迎えた敗戦の後も家族とともに中国にとどまった。飢餓や文化大革命を生き抜き27歳で来日。トヨタ自動車で中国事業を立て直し、豊田章男氏を社長にした男。その数奇な運命を描き出した。

――服部悦雄氏の人生は想像を絶するという言葉がぴったりです。

【写真】児玉氏はノンフィクションを書く際、対象人物と「抱き着き心中をする覚悟」で向き合うという。

こんな人がいると紹介されて会う前から興味深かったが、実際に中国での体験を聞いて驚嘆した。服部さんの壮絶な人生は、まさに『大地の子』の世界だ。

小学生の頃に見た国民党残党が銃殺刑に処される姿、目隠し用の白いタオルを奪い合う子供たち。一つひとつのエピソードに圧倒的なリアリティーがある。しかも、はるか昔のことではなく、ほんの50~60年前に隣の国で起きていたことだ。

極限の飢餓では家族でもコメを巡っていがみ合う。人間の醜悪な部分、むき出しの感情が家族に対してでも出る。日本に帰ってきて食べるのに困らなくなっても、夢に出てくるという。

令和の、AI(人工知能)の時代だが、服部さんの戦後は終わっていない。これは書き残さないといけない。ペンを持つ者の使命だと思った。

心の内に空疎感がある服部さんへの鎮魂歌

――服部さんは非常に複雑な人物です。信頼を得て、取材できたのはなぜでしょうか。

大学時代、留学生である中国共産党高官の息子と付き合いがあったため、私が中国のことをよく知っていた。それが信頼につながったのではないか。

彼のメンタリティーは中国人で、実利の人だ。ただし、取材を受ける実利はない。失意の中で日本に帰ってきて、どこかで承認欲求があったのだろう。

トヨタ中国のOB会で「第一汽車との合併、広州汽車との合弁は、すべて僕が決めて、僕がやってきた」とあいさつしている。こんなこと、日本人はなかなか言わない。だから、現役時代は周囲から違和感を持たれ、敵も多かった。

彼の心の内には空疎感がある。トヨタの東京本社が見える彼のマンションを何回か訪問したが、生活感がない。高級な革張りのソファがあるくらいで、身の回りの物は最低限。冷え冷えした部屋の空気が彼の心象風景を示しているようで哀れだなとも思った。

この本は服部さんへのある種の鎮魂歌。私なりに彼の人生に1つの落とし前を付けたつもりだ。

――副題の「豊田章男を社長にした男」や帯の「豊田家世襲の内幕」については読者自身に読んでもらうとして、服部さんのトヨタに対する思いはどういうものでしょう。

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