『不適切にも』TVにとっての"コンプラ"現在地 クライマックスをミュージカルにするのはなぜ
東洋経済オンライン / 2024年2月15日 12時0分
第1話では、秋津真彦(磯村勇斗の二役)が会社の後輩にハラスメントで告発されている。秋津はただ「頑張ってね」と言っただけなのにと戸惑うが、会社の担当者は、いまはそういう時代だとまったく受けつけない。
するとその居酒屋にたまたま居合わせた小川が頑張れと言っちゃなぜいけないのかと反論し始める。
また第2話では、テレビ局のバラエティ番組制作部署に勤める犬島が、産休から復帰した途端に働き方改革の波にもまれ、思うように自分のペースで仕事ができなくなり苦悩する。
しかし上司は犬島の訴えを聞く耳をもたない。そこに犬島への届け物を持った小川が現れ、昭和の働きかたのどこがいけないのかと口をはさむ。
そして最新の第3話では、下ネタ満載の昭和のテレビ番組とセクハラに過剰なまでに配慮する令和のテレビ番組が対比的に描かれる。
そして配慮のしすぎでどうすればよいかわからなくなった令和のテレビ関係者たちに、「出演する女性が自分の娘なら」という想像力をいつも働かせればいいのではないかと小川が訴える。
こう見ると、犬島の職場をテレビ局に設定しているのがひとつポイントなのだろう。もちろんテレビ局も企業のひとつなので、業種に関係なく関係するコンプラの問題がある。
だがその一方で、テレビというメディアが映像や言葉の表現に携わる仕事であるがゆえに出てくるコンプラの問題がある。その両面を視野に入れた物語が、今後も展開することになるのかもしれない。
“対話”を演出するミュージカル場面
演出という点で、このドラマを見て最初「エッ!?」と驚くのはミュージカル場面だろう。
毎回クライマックスになると、いきなりミュージカルになって阿部サダヲをはじめ出演者、店にいる客やオフィスの社員まで全員が歌って踊り出す。そして昭和と令和それぞれの立場からの考えや意見を歌で伝えるのである。
こういう演出にした意図はどこにあるのだろうか?
ひとつは、コンプラという話題が硬くなりがちなため、ミュージカルにすることで雰囲気を和らげるということはあるに違いない。報道番組ではなくドラマ。あくまでエンタメである。実際、居酒屋や職場が突然華やかなステージと化す様子は、意外な俳優の歌とダンスが見られることも相まって無条件に楽しい。
だが、それだけではないだろう。もうひとつ感じるのは、ミュージカルにすることで“対話”が強調されるということだ。
ミュージカル場面で、登場人物は昭和の価値観と令和の価値観を互いにぶつけ合う。この場面を普通のセリフによる芝居にするという選択肢も当然あるだろう。
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