民営化の布石?台湾鉄道「国営企業化」の大改革 蔡政権「最後の実績」、組織は変わるが実態同じ?
東洋経済オンライン / 2024年2月17日 6時30分
そんな姿勢を見直すきっかけとなったのが、2018年と2021年に相次いで発生した組織管理、安全意識の欠如による不祥事だ。2018年10月21日に発生した「プユマ号」の脱線事故を受け、当局は「台鉄総点検」として組織内部の問題点の洗い出しと改善を実施したが、そのさなかの2021年4月2日に「太魯閣号」の脱線事故が発生。2つの事故で合計67人が犠牲となる事態に、台鉄の改革は蔡英文政権下で一大課題となった。
太魯閣号の事故から5日後には、蔡総統が台鉄の組織文化の一新、収益性の改善、持続的な経営を軸とした国営企業化への改革を打ち出した。同年5月4日にはその草案が日本の内閣に相当する行政院に提出され、スピード感のある動きを見せた。
しかし、行政院からは労働組合と改革案について検討するよう突き返され、安全や雇用に不安を持つ労働組合の反発に再び向き合うこととなる。その調整は難航し、労組はメーデーの2022年5月1日、休暇の権利を引き合いに台鉄史上2回目となるストライキを決行。日曜日にもかかわらず在来線はわずか18本を除いて全線運休し、バスで全国的な代替輸送を行うという異常事態に陥った。
だが、その後は一定の進展が見られ、2022年5月27日には法案が日本の国会にあたる立法院を通過。2023年1月13日には、蔡政権の任期満了に伴う総統選直前となる2024年1月1日の国営企業化が決まった。
将来的な完全民営化を目指しているものの、今回行われたのはあくまで国営企業化だ。株主も旧組織を管轄していた交通部で、代表にあたる董事長は2020年より前体制での局長を務めてきた杜微氏。業務を統括する総経理も、各市政府の交通局や副局長を担当してきた馮輝昇氏と変化に乏しく、日本の国鉄民営化のように会社が分割されたわけでも、ロゴが変わったわけでもない。そんな様子にネット上では「企業化すれば何でも解決する」といった皮肉めいた声や、「結局、お役所仕事には変わらないだろう」などと落胆の声も聞こえる。
変化が少ないようにも見える今回の国営企業化だが、具体的にどんな点が変わるのか。行政院は資料の中で3つの目標を掲げている。
1つは組織文化の改革による安全の向上だ。台鉄では企業化前の2023年7月に局長自らが阪神電鉄やJR西日本の研修施設、鉄道安全考動館や福知山線事故現場の跡地を見学、また9月にはJR西日本の社外有識者委員を務めた安部誠治氏を台湾に招いて意見交換を行うなど、国外を参考に組織づくりを模索してきた。
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