半導体ルネサス、「異質の巨額買収」の裏に危機感 9000億円弱で電子回路設計ツール企業を買収
東洋経済オンライン / 2024年2月20日 7時0分
大手半導体メーカーのルネサスエレクトロニクスが、同社史上最大となる巨額買収に踏み切る。買収するのは、アメリカに本社を置き、オーストラリア証券取引所に上場するアルティウム。約8879億円を投じ、今年中に全株を取得する予定だ。
【画像】発表の会見にはルネサスが9000億円弱で買収することにしたアルティウムのアラム・ミルカゼミCEOも出席した
「今回の買収は異質。将来への重要な一歩になる」。柴田英利社長は2月15日の会見でそう意気込んだ。
この数年のルネサスは、海外半導体メーカーの買収を積極的に仕掛け、7000億円前後の買収も2件行った。その同社が「異質」と表現するには理由がある。目的が「伝統的な半導体メーカー」からの脱皮にあるからだ。
巨額を投じる企業は年商400億円規模
アルティウムは、電機製品の電子回路を設計する際に使われるPCB(プリント基板)設計ツールを手がける。半導体など電子部品の組み合わせをアルティウムのソフトウェア上で仮想的にシミュレーションすることで、物理的に電子部品を組み立てることなくその性能や安全性を検証できる。
サービスは月額数万円から提供。ユーザー数は3万社を超え、日立製作所、アメリカのテスラやロッキード・マーチンなどさまざまな産業の顧客が使用する。年間売上高は足元で400億円前後だが、直近5年で2倍に拡大した成長企業だ。
ルネサス製品を用いた電子回路の検証は現状でも可能であり、その意味でルネサスはアルティウムの提供するプラットフォームの参加者だ。だが巨額を投じて完全子会社化するのは、「参加者としてでは少し踏み込み不足」(柴田社長)だと感じていたからだという。
ルネサスは現在の柴田社長体制下になった2019年以降、同社が「ウィニング・コンビネーション」と呼ぶ戦略を進めてきた。「ルネサスの半導体を組み合わせることでこんな機能が実現できる」と提案し売り込んでいくことで、半導体単品とは異なった付加価値を生み出していく戦略だ。
必要な製品ラインナップを増やすため、この数年間は数百億〜数千億円規模で半導体メーカーの買収を相次いで行ってきた。そうして手に入れた製品群をテコに、収益性は大幅に改善。赤字体質にもがいていたかつての姿からは一変、業績と株式市場からの評価ともに完全復活を果たしている。
こうした経緯を踏まえれば、ソフトウェア企業であるアルティウムの買収は畑違いともいえる。「ルネサスはいったいどこへ向かおうとしているのか」――。買収会見に参加した記者や証券アナリストの関心は、その一点にあった。
ものづくりの工程が変化
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