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4月生まれは「能力が高い」と言われる本当の理由 生まれた月の差ではなく学習機会の差が原因だ

東洋経済オンライン / 2024年2月27日 17時0分

マートンは、新約聖書のマタイ福音書の文言「おおよそ、持っている人は与えられて、いよいよ豊かになるが、持っていない人は、持っているものまでも取り上げられるであろう」という一節から借用してこのメカニズムを「マタイ効果」と命名しました。

著名科学者による科学的文献には水増しする形で承認が与えられる一方、無名科学者にはそれが与えられません。例えば、ノーベル賞受賞者は、生涯ノーベル賞受賞者であり続けますが、この受賞者は学界で有利な地位が与えられるために、科学資源の配分、共同研究、後継者の養成においてますます大きな役割を果たす一方、例えば無名の新人科学者の論文は学術誌に受理されにくく、業績を発表することについて著名科学者に比べて不利な位置におかれる、ということです。

数カ月分、経験値があるため有利なだけ

この「マタイ効果」が、子供たちにも作用しているのではないかという仮説は以前から教育関係者の間で議論されていました。例えば、同学年で野球チームを作る場合、4月生まれの方が体力面でも精神面でも発育が進み、どうしても有利な場合が多い。

そのため、結果的にチームのスタメンに選ばれ、より質の高い経験と指導を受けられる可能性が高まります。人はいったん成長の機会を与えられるとモチベーションが高まり、練習に励むようになりますからこれでますます差がつく。

この「マタイ効果」についての是非の議論は横においておくとして、これらの事実、つまり4月生まれは3月生まれよりスポーツも勉強もできる、という統計的事実と、その要因に対してマートンが唱えた仮説は、組織における「学習機会のあり方」について私たちに大きな反省材料を与えてくれると思います。

私たちは常に「飲み込みの早い子」を愛でる一方、なかなか立ち上がらない子をごく短い期間で見限ってしまうという、とても良くない癖を持っています。なぜそういうことが起こるかというと教育のためのコストが無限ではないからです。

これは会社における教育投資でも、社会資本としての教育機会であっても同じことですが、私たちは「より費用対効果の高い子」に教育投資を傾斜配分してしまう傾向があり、そのため初期のパフォーマンスの結果によって、できる子はさらに良い機会が与えられて教育される結果、更にパフォーマンスを高める一方、最初の打席でパフォーマンスを出せなかった子をますます苦しい立場に追いやってしまう、ということをしがちです。

しかし、こういうことを続けていると「物わかりの早い器用な子」ばかりを組織内に抱える一方、噛み砕くのに時間はかかるけれども本質的にモノゴトを理解しようと努める子(つまりイノベーションの種子になるアイデアを出すような人)を疎外してしまう可能性があります。

そして、そのような「いい子」ばかりになった組織は、やっぱり中長期的には脆くなってしまうと思うのです。

短期的に判断するのではなく、長期的に見る

「4月生まれの子は成績もいいしスポーツもできる」という、発生学から考えればとても不自然な事実は、私たちに、人を育てるに当たって最初期のパフォーマンスの差異をあまり意識せず、もう少し長い眼で人の可能性と成長を考えてあげることが必要だ、ということを教えてくれるように思います。

山口 周:独立研究者・著作者・パブリックスピーカー、ライプニッツ代表

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