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「寿命が短くなる食事」とそうではない食事の差 「命の回数券」減少を抑制する遺伝子の働き

東洋経済オンライン / 2024年3月1日 13時30分

命の回数券とよばれるテロメア

『死神』という落語をご存じですか?とある死神が、「ろうそくの一つ一つは人の寿命である」といい、「おまえは間もなく死ぬことになる」と、今にも消えそうなろうそくを指し示します。驚いた男が「助けてほしい」と懇願すると、死神は新しいろうそくを差し出し、「これに火を継ぐことができれば助かる」といいます。そして、男は今にも消えそうな自分のろうそくを持って火を移そうとするのですが、焦りから手が震えてうまくいかず、死んでしまうという内容です。

似たような話が漫画やドラマでもありますが、共通するのはろうそくです。命の回数券とよばれるテロメアですが、まさにこの寿命のろうそくと一致します。燃えてしまい短くなったろうそくは長さを戻すことはできませんが、テロメアは長さを戻すことができる点で寿命のろうそくとは違います。落語になるような逸話が現実となり得る科学の進歩は驚きですね。

つまり、日々食事をし、栄養を補給するたびに細胞分裂が繰り返され、「命の回数券」であるテロメアを使い切ってしまい、我々の細胞個々で老化が進み、生命全体が死に至ってしまうことになります。栄養素の摂取が標準的であれば老化はそれほど進みませんが、過食とよばれる過剰な栄養の摂取は細胞分裂を過剰に進めてしまうことになり、結果として命を縮めることになります。

2000年のマサチューセッツ工科大学の研究によって、テロメアの減少を抑制(短くなる頻度を少なく)し、老化した細胞を修復する長寿遺伝子を発見しました。それが「サーチュイン遺伝子」です。サーチュインはタンパク質のアセチル化、つまり老化した細胞の傷を修復する機能を上昇させ、テロメアの機能を回復させる効果があるわけです。

赤ちゃんのときはテロメアが長く元気な細胞です。ところが、20歳程度を境にテロメアは徐々に短くなっていき、細胞はそれ以上分裂できなくなり、その結果、細胞は制止し、細胞死を迎えます。細胞が制止した状態から、赤ちゃんのときのように元気な細胞に戻してくれるのがサーチュインの作用です。

生きるための力と死に向かう力は均衡状態にある

このサーチュイン遺伝子は、普段は人間の体内ではあまり活躍していません。これは研究段階で理由はまだはっきりしていませんが、人間には「恒常性」という食べたり息を吸ったりする生きるための力と、「寿命」という死に向かう力があり、両者が通常は均衡しています。つまり、死にそうな状況になればそれに抗って体は生きようとするのです。

2010年のチリの鉱山落盤事故で17日間閉じ込められた後に生還できたのも、サーチュインが活性化したからということは十分にあり得ます。

ここまでの話を聞くと、「じゃあサーチュイン遺伝子は死にそうにならないと活躍しないのでは?」と思うかもしれませんが、なにも死にそうでなくともいいのです。体が死に向かうベクトルが近いと思わせればいいのです。日常的に死が近いと思わせる方法は、空腹です。反対に食べ過ぎてしまうというのは、生きるベクトルが強すぎる状態です。

通常の食事量から30%のカロリーをカットすると、サーチュインが活性化します。チリのトンネル事故の話も、1日おきに缶詰のツナを2さじ、クラッカーを半分くらいしか食べられなかったからこそ、カロリーをカットすることになりサーチュインが活性化したのかもしれません。

今井 伸二郎:代謝機能研究所所長

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