「裸になって向き合った」ハンセン病回復者の人生 新作ドキュメンタリー「かづゑ的」熊谷監督に聞く
東洋経済オンライン / 2024年3月1日 14時0分
「人間にとって普遍的なことを描いたつもりだ」――。
戦争や炭鉱事故など数々の社会問題を取り上げてきた映像ジャーナリスト兼映画監督の熊谷博子氏が初めてハンセン病回復者の人生に伴走したドキュメンタリー映画「かづゑ的」が、2024年3月2日から東京・ポレポレ東中野ほか全国で公開される。
ハンセン病問題は、およそ90年にわたる国の誤った隔離政策により、いまだに回復者や家族への差別や偏見が残る。この作品では、瀬戸内海にある国立療養所「長島愛生園」に10歳で入所し、以後80年以上をこの島で生きてきた宮﨑かづゑさんの日常を8年の歳月をかけて撮影。カメラは入浴する場面まで捉えた。
かづゑさんは、患者同士のいじめという「差別の中の差別」を受け、絶望から死を考えたこともあったが、そこからたくましく這い上がる。右足を膝下から切断し、左足の先もなく、手の指はすべてない。視力もほとんど残っていない。だが、こう言う。「できるんよ、やろうと思えば」。
さまざまな試練から逃げずに生きてきた、この大きなエネルギーの源は何なのか。また、マスコミの取材をほとんど断ってきたかづゑさんが、今回なぜ熊谷氏のアプローチを受け入れ、入浴まで撮らせたのか。
大きな声でカラッと笑いながら、時折、目に鋭い光がのぞく熊谷氏。人を包み込む温かさと、真実を見逃さない強さの両面を併せ持つ。「心を裸にして向き合った」と語る熊谷氏に、撮影の動機や撮影手法について尋ねた。
――これまで戦下のアフガニスタンや原爆の被爆者、炭鉱事故といった社会問題に目を向けてこられました。今回、ハンセン病の回復者を撮ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
【写真】マスコミの取材はほとんど受けなかった宮崎かづゑさんと「波長が合った」という熊谷博子監督
2015年頃、信頼している知人から「どうしてもあなたに会わせたい人がいる」と言われ、そこで初めて宮﨑かづゑさんのことを知った。
彼女が84歳の時に出版した『長い道』という本がある。これを読んだ時の衝撃は大きかった。ハンセン病回復者が書く本は、差別のひどさに重きを置くものだと思っていたが、かづゑさんは、いかに自分が家族に愛されて育ったかに重きを置いていた。
初めて対面した時、「この人は絶対に撮っておかないといけない」と確信した。翌2016年から、長島愛生園に通い始めた。
波長が合った
――回復者の中には差別や偏見をおそれ、顔を出すことに強い不安を感じる方がいまだに多くいます。撮影の許可を得るにあたり、難しさはありましたか。
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