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ゴールデンカムイの「カムイ」はいったい何なのか 大ヒット漫画を通して、アイヌ文化を分析する

東洋経済オンライン / 2024年3月5日 13時0分

でも、それはやはり日常で生活している一般の人々とは区別した言い方なので、本質的にはアイヌ「人間」とカムイは別の存在です。そして、人間の力が及ばないようなことができるものほど、格の高い、えらいカムイだと考えられてきました。

カムイの「活動している」という条件

カムイと考えられる条件である「活動している」というのは、現代の私たちが考えるよりずっと幅の広いとらえ方です。2巻12話でアシㇼパは「火や水や大地、樹木や動物や自然現象、服や食器などの道具にもすべてカムイがいて、神の国からアイヌの世界に役に立つため送られてきてると考えられ」と言っています。

火は熱や光を発し、人間にぬくもりを与え、暗い夜を明るくしてくれます。そしてそのままでは食べられない食材をおいしい料理に変えてくれます。それが火の活動であり、そのために人間は家を建てると、「カムイの世界」からわざわざ火のカムイを招いて、自分の家の囲炉裏(いろり)の中に来てもらうのです。

家や舟や臼や杵(きね)や鍋など、人の手で作って使っている道具類もみなカムイです。11巻109話では「刃物は手では切れない物を綺麗に切ったりしてくれるからカムイが宿ってる」と説明しています。人間が刃物を使って切るのではなく、刃物が人間にない能力を発揮して人間を手伝ってくれるからこそ、ものが切れるのだと考えるわけです。

このように人間のできないことをしてくれるものは、魂を持つすべてのものの中でも、特にカムイと考えられやすいものです。

家は人間を雨風から守ってくれますし、臼は杵と協力して穀物を脱穀したり粉にしたりしてくれる力を持っています。だからカムイであり、昔の人たちはそれらを人間と同じように精神を持ったものとして扱いました。家の屋根が飛びそうになるほど強い大風が吹く時には、臼を紐で縛って家の梁(はり)から吊り下げ、少量の穀物を臼に入れて搗(つ)く真似をしながら、こんな言葉を唱えます。

家の奥さん、気をつけなさい! 自分を守りなさい! 臼の奥さん、異変をお知らせしますよ!

「家の奥さん」というと一家の主婦みたいに聞こえるかもしれませんが、これはチセ カッケマッ「家・奥さん」の訳で、家は女性のカムイと考えられており、家に向かって「奥さん」と呼びかけているのです。風に吹き飛ばされないように、自分の身を護るように、家に向かって警告しているわけです。

臼を梁から吊り下げるのは、昔の家は屋根がただ柱の上に乗せてあるだけですので、地震や大風で屋根がずり落ちてしまわないように、重しをかけるためです。臼もまた女性のカムイで、臼を搗く杵の方は男性のカムイと考えます。穀物を入れて搗くのは臼に腹ごしらえをさせているということで、それで臼に力をつけて屋根が飛ばないように押さえてくれということをお願いしているわけです。

カムイ扱いされない動物もいた

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