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日本の「絵本」は世界に通じるコンテンツになる エフェクチュエーション理論で読み解く(後編)

東洋経済オンライン / 2024年3月6日 10時30分

ここでいう損失には、資金の他に、時間や労力、社内外の協力者からの期待、犠牲にした別の機会などがあります。

店舗の責任者として売り場作りについて大きな権限を与えられていた篠田氏は、社内のキーパーソンである常務取締役の理解を得たうえで、手持ちの資源を活用できる新規事業に速やかに着手しました。

仮に「EHONS」で期待どおりの成果を上げられなくても、失敗から学習して次の取り組みに活かすことができれば、会社としてはもちろん、篠田氏個人も、その後の成功確率を上げることができます。

幸いにも「EHONS」の場合は失敗することなく、絵本ファンや作家のフィードバックを受けて、より高度な経験価値を顧客に提供するための試行錯誤を現在も続けています。

新規事業開発における不確実性に対処するうえでは、このように合理的に試行錯誤を繰り返すことが欠かせません。また経営層には、組織全体で損失を一定許容できる範囲を設定したり失敗を受け入れたりしながら、新たな機会を創り出す企業内起業家を支援することが求められます。

パートナーのコミットメントを引き出す

新規事業をスタートするにあたって篠田氏が最も力を入れたことの1つが、チーム作りでした。

「出版社と作家の方にご協力いただく以上、スタートしたら止まれない、ずっと動かし続けていくという覚悟はありました。しかし、そうは言っても人手はかけられません。だからこそチームメンバー選びには一切の妥協が許されないと思っていました」

作家と絵本の選定を担う児童書を知り尽くした売り場担当者。文具や雑貨のものづくりに長く携わり、メーカーとの交渉経験が豊富な社員……。

これはと見込んだ人材に一本釣りで声をかけていきます。それまでの仕事との兼業での参加ということもあり、最初は戸惑いを見せるスタッフもいましたが、事業への思いを伝えながら一人、また一人と口説き落としていったそうです。

「絵本グッズは、言ってみれば不要不急のものです。それでも、秋葉原のアニメショップのように遠くからわざわざ来店してくれる人は必ずいる。そういう熱い思いに向き合うには、生半可なものではだめなことはわかっていました。丸善に籍を置く限りは何らかの形でずっと『EHONS』に携わりたいという強い意志があるメンバーでなければダメだったのです」

社外のパートナーとも目標を共創する

チーム作りは社外にも広がります。仕事の発注者と受注者といった単純な関係からでは、絵本の作品の世界を守ると同時に奥行きと広がりを与えるオリジナルグッズを生み出すことは困難です。

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