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半身マヒの91歳男性、最期の墓参りで見せた"笑顔" 「死ぬ前に、どうしても一度、故郷に帰りたい」

東洋経済オンライン / 2024年3月7日 14時0分

そんなおり、契約している不動産会社から東京都中野区にある奥田さんの自宅が売れたという知らせが入った。おかげで奥田さんにまとまったお金が入った。この一部を使えば、岐阜旅行も不可能ではない。

上山さんがそのことを話すと、それまで沈みがちだった奥田さんの表情がぱっと明るくなった。

「死ぬ前に、どうしても一度、故郷に帰りたい。そして長年気になっているお墓の様子を見たい。他人から見たら小さな願いかもしれないけど、私にとってはとても大きな願いなんです」

この言葉が1泊2日の墓参りツアーの開催を決定させたのだった。

そして、「日本ツアーナースセンター」のもとへと、依頼が舞い込んだ。

選ばれたのは、元・自衛官看護師

奥田さんの墓参りツアーを担当することになったのが、日本ツアーナースセンターに登録する佐々木昭看護師(61)。

彼の経歴は少し変わっている。54歳まで、海上自衛隊で、自衛官看護師として活動していたのだ。

高校卒業後、自衛隊横須賀病院准看護学院に入校した佐々木看護師は、22歳から自衛官准看護師として、定年までを勤め上げた。55歳になった6年前には、神奈川県の介護施設に再就職し、看護部門の主任として活動した。

そして、還暦を迎えた2022年、ツアーナースの仕事を始めたのだった。

自衛隊にいた頃は災害地や海外の紛争地への派遣もたびたび経験した。派遣された現場では、想定外のトラブルが発生することもある。動じることなく、状況に合わせ、最大限対処する。それが自衛官看護師の任務だ。また、医療職とはいえ、自衛隊では日々の体力錬成が推奨される。時間を見つけてはランニングなどの運動に励んだ。

佐々木看護師は、体力と職務遂行力には自信があった。

移動手段は、改造を施した「福祉タクシー」

2023年の10月某日。東京から岐阜まで、1泊2日の旅に佐々木看護師は同行していた。移動手段は9人乗りのバンを改造した福祉タクシーだ。足の不自由な奥田さんは、車いすでの生活だ。タクシーに車いすごと乗せての旅である。

その日は、生憎の雨となった。

岐阜駅の近くで1泊し、朝一番で目的地の墓地へ向かった。メンバーはツアー利用者の奥田さんと、今回のツアーの手配をした司法書士の上山浩司さん。奥田さんの甥っ子、奥田大介(仮名)さんと、ドライバーの飯田(仮名)さん、それにツアーナースの佐々木看護師だ。

「この5人で、できるだけのことをやろう」

坂の多い市営墓地の、小高い丘の上に奥田家の墓はあった。ぎりぎりまで車を乗り入れても、直線で30メートルほどの距離がある。雨の中、佐々木看護師は先見隊として、墓の様子を偵察した。

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