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半身マヒの91歳男性「人生で最後の帰省」のリアル 「1泊だけ」受け入れてくれる特養を探して…

東洋経済オンライン / 2024年3月7日 14時5分

9人乗りのバンを改造した介護タクシーに、車いすに乗った奥田さんを乗り込ませる。車いすをしっかり固定し、その隣に佐々木看護師が座る。助手席には上山さんが乗り込んだ。

午前8時、車は岐阜に向けて出発した。

今回のツアーの目的は、奥田さんの故郷、岐阜県のお墓参りだ。初日に岐阜まで行き、翌日墓参りをする。現地での案内は、奥田さんの甥っ子である奥田大介さん(仮名)が買って出た。墓参りの後、親戚が集まって奥田さんの旅をねぎらう計画になっていた。

そうした旅の行程そのものを手配したのは上山さんである。最も苦労したのは、現地での奥田さんの宿泊先探しだったという。

「奥田さんは半身マヒがあるうえに、尿道カテーテルを使っています。一般のホテルに宿泊するのは難しい。現地では、1泊だけ受け入れてくれる特養を探しました。自治体の高齢福祉課に連絡し、ショートステイ(一時預かり)をやっている特養のリストをもらいました」(上山さん)

リストの上から片っ端に電話し、やっとのことで受け入れてくれる施設を確保したのだという。

美しい霧ヶ峰の景色に、奥田さんの表情も輝いた

高速道路に入り、昼食の時間が近づいた。佐々木看護師のイメージ通り、諏訪湖サービスエリアで昼食を摂ることになった。ここで1時間の休憩だ。敷地からは、諏訪湖とその向こうに連なる霧ヶ峰の雄大な姿を見ることができた。

施設に住んでいる奥田さんにとって、こうした風景を眺めること、これも非日常の体験だった。慣れない車での旅に、疲れた様子も見せず、表情は明るかった。

マヒが残っているため、奥田さんは食べ物を飲み込むときに、誤嚥することがある。異物が肺に入って肺炎を起こす、いわゆる誤嚥性肺炎は高齢者にとって、とても恐ろしい症状だ。毎年多くの高齢者が誤嚥性肺炎によって命を落とす。

奥田さんの食事は市販のソフト食が用意されていた。レストランのテーブルで、佐々木看護師が奥田さんの隣に座り、スプーンで一口ずつ、ゆっくりと食べさせた。

「奥田さんの食事介助を終わらせた後に、私は手早くラーメンを食べました」(佐々木看護師)

事前の準備がしっかりしていたこともあり、1日目は、特にトラブルもなく、岐阜に到着することができた。話を通してある特養に奥田さんを送り届け、佐々木看護師たちは岐阜駅近くのホテルに直行した。

せっかくの地方出張だ。現地の特産品を肴に一杯やりたいところだが、1泊2日のツアー全体が仕事である。酒を飲むわけにはいかない。奥田さんの状態によっては、夜中に駆けつける必要がないとも言えない。

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