エルピーダ坂本氏の遺言「日本はKOくらってない」 「日の丸半導体」を背負った野武士の規格外経営
東洋経済オンライン / 2024年3月8日 7時40分
いったんはエルピーダの黒字化に成功した坂本氏だったが、抜本的に立て直すことはできず赤字と黒字を繰り返すことになる。そうした厳しい環境下、エルピーダは2003年に約1700億円、2004年の株式上場時に1000億円を調達、広島工場へ果敢な設備投資を行った。並行して、台湾企業の買収や提携を進めるなど、攻めの戦略を繰り出していった。
半導体ビジネスには、好況と不況を繰り返すシリコンサイクルがある。メモリ最大手の韓国サムスン電子は、不況時でも巨額の設備投資を実施しシェアを拡大していた。坂本氏はこの勝負に何とかついていこうと必死だった。
危機の連続、ついに経営破綻
しかし、リーマンショック後の2009年3月期には1788億円の最終赤字を計上。この時は「産業活力再生特別措置法」を申請し、経産省のバックアップを受け、日本政策投資銀行への優先株発行で300億円を調達するなどして乗り切った。ただ、苦難はこれで終わりではなかった。
2011年の東日本大震災後、一時1ドル75円をつけた空前の円高でエルピーダの経営は火の車となった。当時、エルピーダの経営危機を懸念してアップルの担当者が来日し、政投銀に「DRAMは非常に重要。エルピーダをサポートしてほしい」と何度も要望したが「DRAMは日本に必要ない。韓国からでもどこからでも買える」とにべもない対応だったという。
坂本氏は資金調達のために毎週のように海外へ飛び回ったが、交渉はまとまる寸前で次々と頓挫。そして2012年2月27日、エルピーダは会社更生法の適用を申請した。負債総額は4480億円。
この時、坂本氏は取引金融機関にも更生法申請を悟らせず、直前には預金の一部を引き出すなどもした。このことで今も坂本氏を恨む関係者がいることは事実だが、坂本氏にとっては、エルピーダの事業を継続させるための窮余の策だった。エルピーダは2014年にマイクロン・テクノロジー傘下となり、旧エルピーダ・広島工場は今も日本で唯一のDRAM工場として稼働している。
経営者としてエルピーダの破綻を避けられなかったのだから、坂本氏に厳しい意見があるのは当然だ。一方、その手腕を評価する声も間違いなくある。
前出の経産省元担当官は「正直、エルピーダが10年以上も生き残るとは思っていなかった。マイクロン傘下になった今でも広島工場が稼働を続けているのは、間違いなく坂本さんの手腕」と称賛する。坂本氏はリストラせずに工場を存続させるため、ギリギリのタイミングで破綻の道を選んでいた。
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